(コメと生きる)広がる飼料用米:上 水田残したまま転作可能 /山形県
2018年02月28日
山辺町北山にある山形ピッグファームの松山農場。昨年5月、豚舎の中では豚がエサ箱を囲み、盛んに口を動かしていた。「コメは栄養価も高く、食いつきもいい」。阿部秀顕社長(47)は笑顔を見せた。
「お米を食べて、あまりのおいしさに舞い踊る豚」をイメージした「舞米豚(まいまいとん)」は、同社や町、地元JAとコメ農家が連携し、2008年度に始めた事業から生まれた。1965年に4頭の豚からスタートした同社は、今では年に約4万頭を出荷する町内有数の企業になった。トウモロコシや大豆などの輸入穀物に飼料用米を12%混ぜたエサを与えた「舞米豚」は、町の特産品の一つになっている。
飼料用米を使った特産肉は、県内では平田牧場(酒田市)の「こめ育ち豚」が有名だ。ほかにも大商金山牧場(庄内町)の「米の娘ぶた」、牛肉ではJAさがえ西村山肉牛部会(寒河江市)の「もち米牛」、和(なごみ)農産(天童市)の「和の奏(かなで)」など各地に広がっている。
農林水産省によると、コメ余り対策として進めてきた生産調整(減反。17年度で廃止)で、田んぼで主食用米の代わりに植えられた飼料用米の面積は、08年の1410ヘクタールから16年の9万1169ヘクタールへと跳ね上がった。主な転作作物である麦(同期間に9700ヘクタール増)や大豆(同6千ヘクタール減)を大きく上回る伸び幅だった。
飼料用米の作付けが広がっているのは、水田を残したまま転作に取り組めるためだ。麦や野菜を植える際に必要な水田を畑地化する作業や、新たな農機具の購入など設備投資が必要ない。舞米豚用の飼料用米をつくっている山辺町の男性(59)は「これまでと同じ機材でつくれるのはありがたい」と話す。
飼料用米を使うのは畜産農家側にも利点がある。
農林水産省の15年度・畜産物生産費によると、畜産農家の経費全体に占める飼料(エサ)代の割合は、乳牛が48%、肉牛(交雑種肥育牛)が44%、豚が65%と大きい。山形大学農学部の浦川修司教授(作物生産科学)は「トウモロコシや麦など飼料原料の多くは輸入頼み。為替変動などの海外情勢によって価格が乱高下し、畜産農家の経営を圧迫するリスクがある。国内で安定して食肉を生産するために、飼料用米の活用は必要だ」と指摘する。
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飼料用米を活用し、地域の振興に取り組む農村の現状を報告する。(井上潜)
【写真説明】
飼料用米が混ざったエサを食べる豚。屋外のタンクからエサ箱(右)に自動的に供給される=山辺町
【図】
主な転作作物の面積の推移
《朝日新聞社asahi.com 2018年02月28日より抜粋》