20171112

(あおもり 探)北限のサル増、じわり街へ むつ食害「ここが防波堤」 /青森県


2017年11月12日

下北半島に生息する国の天然記念物「北限のサル」が、じわりとその数を増やしている。半島西部が中心だった行動域も次第に広がり、8月にはむつ市の中心街から数キロの集落でサルの群れによる初めての食害が出た。県や市は被害対策を強めるが、頭数増に歯止めがかからず、人とサルの共存に向けた攻防が続く。

8月中旬、市中心街から約3キロ北の宮後地区では、畑から近くの山林までサルがかじったカボチャが点々と落ちていた。杉山隆一さん(69)の畑では70個が全滅。「食べ頃のを選んで山に持って行く。大きなカボチャまでやられ、本当に憎たらしい」と悔しがった。
地元町内会長の工藤武道さん(65)によると、群れの目撃は春先からで、集落ではカボチャ150個以上、トウモロコシ150本以上が食べられた。トマトや大根なども被害に遭い、「手当たり次第」という。
杉山さんは「地区の住民が生産意欲を失って耕作放棄地となれば、行動域は市街地まで広がる。ここは被害拡大を食い止める防波堤のようなもの」と危ぶむ。
市によると、群れは市北部から移動してきたとみられ、8月21日には30頭以上を確認した。わなで4頭を捕獲し、残りは市職員らが山に追い返したという。

■モンキードッグ有効

県などの調査では、2006年度に29群1300頭余りだった下北半島のサルは、16年度には70群2600頭余りと倍増した。市農林畜産振興課は「群れが大きくなると小さな群れに分かれ、行動範囲を広げる」といい、「目撃がない地域でも今後、群れが出現する恐れがある」と警戒する。
有効とされる被害対策は、専門の訓練を受けた「モンキードッグ」によるサルの追い上げと、電気柵による侵入防止だ。1960年代から被害に悩む同市脇野沢では08年度にモンキードッグを導入。市内の農作物被害額が前年度の180万円から半減した。佐井村や大間町でもその後導入され、電気柵とあわせた対策で06年度732万円だった下北地域の被害額は15年度147万円まで減った。
同課の酒井一雄課長は「モンキードッグや監視員の新たな配置を検討し、被害を広げる群れを集中して見張りたい」と話す。

■捕獲に力、県技術磨く

天然記念物に指定されているサルと人の共存は、一筋縄では行かない問題だ。
サルの保護を図りつつ被害を減らそうと、県は今年3月に策定した管理計画で、生息数を約1900頭に抑えることを当面の目標とした。生息域と人の生活圏の線引きを明確にするため、被害を繰り返す個体や群れに限って市町村に捕獲を許可。だがこれまで実際にわなにかかったサルは半島全体で年間90~170頭で、従来の計画に基づく許可頭数の半分に満たない。
群れの数頭が捕まると他のサルがわなの危険性を学習するためで、「増加のペースに捕獲が追いついていない」(県自然保護課)。県は効果的な捕獲機材や新たな技術を研究し、市町村を支援する考えだ。
下北半島でサルの調査研究を30年続ける動物写真家でNPO法人ニホンザル・フィールドステーションの松岡史朗事務局長は「人と動物が緊張関係を取り戻すまで対策を続け、折り合いをつけた先に共生があるとも言える。地域ぐるみで生活を守るため、住民がわなを使えるような規制緩和も必要」と話す。(林義則)

あおもり 探(たん)

【写真説明】

(上)脇野沢地区の集落に近い山林に現れたサル=9月、むつ市脇野沢(下)サルの監視にあたるモンキードッグ=むつ市脇野沢、同市提供
《朝日新聞社asahi.com 2017年11月12日より抜粋》

 

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