福島復興の「光」は 避難指示解除後、帰還・移住進まず
2017年09月09日
震災と原発事故から6年半になる。福島県内の11市町村に出された国の避難指示は、放射線量が高い区域などを除き、大部分で解除された。だが、住民票に基づく人口のうち、解除区域に帰還したり震災後に新たに移住してきたりした人の割合(居住率)は12・4%。今も5万人を超える住民が避難生活を送っている。
避難指示は段階的に拡大し、2011年4月までに11市町村の約8万1千人に及んだ。その後、除染や年月の経過で放射線量が下がり、国や県はインフラの再建が整ったと判断した区域から避難指示を解除していった。14年4月の田村市都路地区に始まり、今春には富岡町など4町村、約3万2千人が新たに解除の対象となった。住民の帰還が比較的進んでいる区域もあるが、大半は思うように進んでいない。解除されて5カ月が過ぎる4町村の場合、帰還・移住したのは4%だ。避難先での生活に慣れ、「いまさら戻れない」と考える住民は少なくない。放射線量に対する不安も根強い。
国や県は解除区域で生活基盤の整備を進め、富岡町や川俣町に商業施設、飯舘村には「道の駅」ができた。雇用の場を設けるため、廃炉技術の研究所や関連産業の集積にも乗り出している。
(内山修)
■「までい」の村、7年ぶりの実り 飯舘のインゲン出荷再開、「働ける幸せ」
東京電力福島第一原発事故で全村避難を強いられた福島県飯舘村。3月末、避難指示の大部分が解除されたが、人々のかつての営みは戻っていない。「までい」(丁寧に、心を込めて)を合言葉にしていたこの村で今夏、特産だったサヤインゲンを一人の農家が7年ぶりに実らせた。
朝もやが立ちこめる8月下旬の午前5時。空が白んできた。鈴なりに実った15センチほどのインゲンを末永瑞夫さん(64)が一つ一つ素手でもぎ取っていく。
この村で約40年にわたってインゲンを育ててきた末永さんの、久しぶりの収穫。日が昇って徐々に蒸し暑くなり、額から汗が噴き出した。1時間余りの作業を1人で終え、「ものづくりが好きなんだべな」。200グラム入りの計47袋を8月中旬にオープンした村内の「道の駅」に届けた。
人口約6千人の飯舘村は標高約450メートルに位置し、第一原発から30キロ以上離れている。原発とは無縁だったが、2011年3月の原発事故で、村を支えた農業、酪農、畜産は中断を余儀なくされた。
末永さんの先祖も代々、村で農業を営み、父の代から約3千平方メートルの畑でインゲンを育て始めた。その畑を置いたまま、村から35キロ離れた福島市に逃れた。
でも、村への思いは途切れなかった。「じっとしているのが我慢できない」。仲間とともに24時間3交代で村の防犯パトロールを始め、今は日中、除染と農地の再整備を担う村の振興公社に勤めている。
国は3月末、放射線量が下がり、生活インフラが整ったとして村の大部分の避難指示を解除した。それから5カ月。帰還住民は1割に満たない。末永さんも福島市の公務員住宅に母(85)と妻の妙子さん(59)と身を寄せている。築90年の自宅は雪の重みで屋根が壊れて雨漏りし、ネズミのふんが散らばっていた。昨年春、取り壊した。
「誰かが先頭に立ってやらないと」。その思いが背中を押した今春、避難指示の解除を受け、除染が終わった800平方メートルの畑でインゲンを作付けした。県の検査で放射性物質は検出限界値を下回り、7月に出荷を再開した。もともと約150戸の農家が栽培していたが、今は末永さんを含め、3人しかいない。
日が暮れた午後6時半すぎ、公社の仕事を終え、畑近くの農機具小屋で妙子さんとインゲンの選別作業を始めた。バケツにベニヤ板とクッションを載せただけの椅子に座りながら、大きさや曲がり具合を見ながらより分ける。
小屋の壁には晴れ着姿の子どもの写真が立てかけてある。長男(34)、長女(32)、次女(29)の七五三の写真だ。家を建て直し、来春からここで暮らそうと思っているが、村には除染土を入れた袋が約200万袋残っている。幼い孫を抱える子どもたちの足は村から遠ざかったままだ。
2時間余りで選別を終えた。「あしたは1袋100円で売ろう。採算はとれないけど」と2人は笑い合った。「働けることが幸せなんだな」
この日の作業を終え、車を1時間走らせて避難先へ帰った。翌朝4時、また畑へと向かう。
(伊沢健司)
■解除された区域の居住率
田村市(2014年4月) 79.3%
川内村(14年10月、16年6月) 20.1%
楢葉町(15年9月) 26.5%
葛尾村(16年6月) 15.4%
南相馬市(16年7月) 26.2%
浪江町(17年3月) 1.9%
飯舘村(17年3月) 8.5%
川俣町(17年3月) 24.3%
富岡町(17年4月) 2.6%
※各市町村の9月1日時点。浪江町は8月1日時点。( )内は解除年月
【写真説明】
早朝、畑でサヤインゲンを収穫する末永瑞夫さん=8月29日午前5時30分、福島県飯舘村、竹花徹朗撮影
《朝日新聞社asahi.com 2017年09月09日より抜粋》