和牛五輪、高校生の挑戦 宮崎勢V3貢献へ夢舞台 【西部】
2017年08月31日
「和牛五輪」と呼ばれ、和牛農家が育成技術や肉質を競う全国和牛能力共進会=キーワード=(全共、仙台市で9月開催)の宮崎県代表の一頭に、高校生が育てた牛が選ばれた。宮崎は全共2連覇中で、「日本一の和牛」を名乗る産地での快挙。県内の畜産関係者がめざす「全共3連覇」の夢を、高校生たちも一緒に追いかける。
選ばれたのは県立小林秀峰(しゅうほう)高校農業科=同県小林市=の雌牛「れな」。同校農業クラブの8人が育てた。
母牛の体形や立ち姿の美しさを審査する、種牛(しゅぎゅう)の部の「2区」に出場する。高校からの出品は1987年の大分県立三重農業高(現三重総合高)以来、30年ぶり。今大会には広島の県立庄原実業高も出場する。
宮崎の選考会を勝ち抜くのは、全共の本番より厳しいとも言われる。
7月の選考会。生徒たちは、れなに「一緒に宮城に行くよ」と声をかけ続けた。代表決定のアナウンスが流れると、会場からはどよめきと大きな拍手が起こり、生徒たちは泣き叫んで喜んだ。2区の県代表は2枠あり、もう1枠は全共に4連続で出場している大ベテラン農家が選ばれた。
県の選考で審査員を務めた全国和牛登録協会県支部の長友明博事務局長は、「選ぶ側も真剣。偶然で代表は取れん」と舌を巻く。
■夏休みも返上
農業クラブの生徒8人は夏休みも愛牛のために毎日牛舎に通った。全共の舞台の地面が土と聞き、牛舎の近くには土場を設け、牛をきれいに立たせたり、歩かせたりする調教も行う。
「引き手の焦りは手綱かられなに伝わる。練習でも本番を想定しており、空気は張り詰めています」と、農業クラブ部長の瀬戸口敬太さん(3年)。顧問の東房男教諭(59)は「代表に決まってからは生徒たちの意識も変わった」と話す。
小林秀峰高は県立高校の再編で2008年に設立。農業科は11年にできた。農業クラブでは母牛15頭を飼い、産まれた子牛を売ったお金で、機械導入費やエサ代、光熱費などをまかなう。生活費以外は畜産農家と同じやりくりをする。
れなは、全共に向けてためてきた貯金から、今年2月の子牛の競り市で約110万円で買った。値段で言えば「平均よりやや上」。素質ある牛を全共経験農家の育て方をまねながら、8人の手と目をかけて育てた。
■「学べる」特権
地元の全共経験農家を訪ねたり、調教技術を教えてもらったり。他の農家はライバル意識からできない「学ぶ」という高校生の特権が、結果につながった。
瀬戸口部長は「技術ではまだ未熟だけど、8人分の愛情を注いできた。うちの『美人』を全国の舞台でしっかりと立たせるためにどんなことでもしたい」。
全共が始まる9月7日は東教諭の60歳の誕生日。還暦のプレゼントとして2区で上位に食い込み、県勢の3連覇に貢献したい。(小出大貴)
◆キーワード
<全国和牛能力共進会(全共)> 5年に一度開かれる。見た目と肉質の審査で全9区の出品区がある。9月7~11日に仙台市で第11回大会が行われ、宮崎からは28頭が出場。宮崎は全区の総合得点で決まる団体賞を2大会連続で制し、「日本一の和牛」を名乗る。
【写真説明】
審査に向け、牛をきれいに立たせる調教を毎日繰り返している
牛を立たせる調教では周りから立ち姿を眺め、まっすぐ立っているかを確認していた=いずれも宮崎県高原町
《朝日新聞社asahi.com 2017年08月31日より抜粋》