20170707

地域経済、活性化なるか 日欧EPA合意 【西部】


2017年07月07日

日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)で多くの品目の関税がなくなる。九州・山口地方の産業や消費者にも影響が見込まれる。自動車や日本酒の輸出には追い風だが、安い農林水産物が入ってくることに、南九州で盛んな酪農や養豚業の生産者からは懸念する声もあがる。
■輸出後押し効果 車・日本酒

九州にはトヨタ自動車や日産自動車の工場がある。部品の5~6割を地元企業から買っている。輸出が増えれば地域にプラスだ。

日産は国内生産の約7割を九州で作る。生産子会社の日産自動車九州(福岡県苅田町)は昨年度生産したうち、17・4%(約8万6千台)が欧州向け。スポーツ用多目的車(SUV)が好調で、「生産台数の増加につながればプラス」(広報)と話す。

トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)では、16・1%(約5万6千台)が欧州向けで、その割合が増えている。レクサスが中心で「BMWやベンツが強い欧州で、高級車として健闘している」(広報)。

ただ、日産は日本から輸出の大半を占める車種も将来的には欧州で現地生産する方針も掲げる。車メーカーと取引がある福岡県内の金属加工会社の担当者は、「関税撤廃は追い風のひとつだが、欧州で売れる車種が作れるのか、その際にうちの部品が採用されるかは先のことでわからない」と慎重に受け止める。

また、最近の和食ブームで海外で人気が高まっている日本酒も、関税撤廃が好機となる。「獺祭(だっさい)」を造る旭酒造(山口県岩国市)は、フランスやベルギーなど約20カ国・地域に輸出する。全体の年間出荷量の1割ほどで、売上高では10億円超だ。輸出額は10年間で約25倍にも増えた。今は100リットルあたり最大7・7ユーロの共通関税がかかっている。関税が撤廃されれば、「(輸出事業には)プラスになることは間違いない」(同社)。(田幸香純、湯地正裕)
■食品価格は…影響限定的?

EUから輸入するナチュラルチーズやワインの関税の撤廃・削減で、店頭での価格が安くなる期待も高まっている。

福岡と佐賀の両県にスーパー67店、酒販店26店を展開する西鉄ストア(福岡県筑紫野市)。チーズは主に国内メーカーの商品を仕入れ、販売している。一般に輸入ナチュラルチーズを原料にしている商品も多い。広報担当者は、「メーカーがEUからチーズの原料を仕入れているならば、店頭価格も下がることになるのではないか」と話す。

ただ、価格への影響は限定的とみる小売店も少なくない。高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」などを扱う洋酒販売のモエヘネシーディアジオは、「原材料費が高騰している。どの程度値下げできるかはわからない」との見方だ。

博多阪急(福岡市)は、店頭に並ぶ800種類ほどのワインのうち、約600種類がEU産だ。「まだ決まってはいないが、輸入業者がどうするかにより、適正価格を付ける」(広報)と慎重な物言いだ。(山下裕志、柴田秀並)
■安い品、流入に不安 畜産・林業

酪農が盛んな熊本県。熊本県酪農業協同組合連合会(熊本市)の担当者は「チーズが大量に入ってくれば、全国の乳製品の需給に影響する」と心配する。

気候で生産量が変わりやすい生乳の需給は、国や農協、乳業メーカーが一体で調整している。チーズなど加工向けは生産コストが安い北海道、飲用向けはそれ以外の地域と大まかな住み分けをしてきた。輸入チーズが売れて北海道産の生乳が余れば本州や九州などに安い生乳が流れ込む。熊本産は価格面で厳しくなる。

豚の飼養頭数が全国1位の鹿児島県。約1500頭の豚を飼育し、養豚歴40年以上の鹿屋市の農家、上村隆志さん(66)は、「安い豚肉が大量に入ると、資金力の弱い個人事業者は生き残れないのでは」と話す。

関税撤廃などで税収が減り、養豚に回っていた支援事業などの予算が減るのも心配だ。交渉について現場に届く情報が少ないのも不満で、国に対し「平均的な農家が生き残る方法を考えてほしい」と訴える。

林業では住宅の柱などに使われる「構造用集成材」の関税が撤廃される。製材最大手の中国木材(広島県)は宮崎県にある工場で昨年から主に南九州の木で集成材をつくり始めた。競合する欧州製品の値段が安くなるため、同社の担当者は「大きくはないが、マイナスなのは間違いない」。

アジ(関税10%)やサバ(同)も十数年で関税撤廃などされる。アジフライ向けのオランダ産アジが安く入ると、日本有数のアジの水揚げを誇る長崎県の漁業者も影響をうけそうだ。(大畑滋生、周防原孝司、町田正聡)
■九州の生乳生産量と豚の飼養頭数(2016年)

生乳生産量(万トン) 豚の飼養頭数(万頭)

福岡   8           8.3
佐賀   1.5         8.3
長崎   5.1        18.8
熊本  24.9        28.2
大分   7.4        13.6
宮崎   8.5        83.5
鹿児島  8.8       126.3
(九州農政局まとめ。生乳生産量は概数値。豚の飼養頭数は16年2月1日時点)
【写真説明】

旭酒造では増産対応のため2年前に麹(こうじ)室などが備わった新施設を建設した=山口県岩国市

 

《朝日新聞社asahi.com 2017年07月07日より抜粋》

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です