20170605

AIで変わる採用選考 「活躍予測」もとにPC面談


2017年06月05日

来年春に卒業する、大学生向けの採用選考が今月から本格的に始まった。人工知能(AI)の活用が広まるなか、採用で使う企業も増えている。採用にかかる時間や人手を減らすことができ、学生にとっても交通費や宿泊費の負担を抑えられる利点がある。ただ、「最後は人が判断した方がいい」という声も根強い。
「就職活動はいつ始めましたか?」

「去年の12月から自己分析を始め、2月ごろからOB訪問をしました」
5月下旬、都内のオフィスの一室に人事担当者と大学生の声が響いた。ただ、部屋に学生の姿はない。会話は、パソコンを通じて行われていた。

画面越しで話していたのは、福岡市の大学4年、川越里奈さん(21)。ネット広告大手のセプテーニ・ホールディングス(東京都)が、地方学生向けに今年から始めた「オンライン・リクルーティング」に応募し、自宅にいながら面談を受けていた。同社は最終の役員面接もオンライン上で実施し、社員と会わずに採用まで決まる制度がある。

経団連の指針では、採用面接などの「解禁」は6月1日だが、その前から選考を始める企業も多い。川越さんはこれまで東京との間を5~6回往復し、交通費だけで約15万円はかかったという。「就職活動には、お金も時間もかかる。この方法なら自宅からの移動時間はゼロ秒だからとてもいい」

セプテーニがこうした採用を取り入れた背景には、AIの進歩がある。過去に選考を受けた学生と社員約6千人のデータを2009年から蓄積し、採用時と入社後の活躍の度合いから「活躍予測モデル」を開発。採用担当の江崎修平さんは「どんな社員が将来、どんな活躍をするのか、相当な精度で分かるようになった」と語る。

14年からは予測モデルを採用にも導入し、約15分の性格診断テストなどを受けてもらうことで、約100項目の情報を取得する。AIによる分析を活用することで面接は簡略化され、地方学生が東京や大阪の面接会場に直接来なくても、採用が完結するようになった。

学生優位の売り手市場が続くなか、企業にとっては競合他社との差別化が課題だ。江崎さんは「距離や時間という、学生の壁を取り除くことは重要だ」と話す。18年春には100~120人の新卒者を採用する計画で、このうち約3割をオンラインだけで採用する。3月末の時点で、地方からの応募は前年比2・3倍に増えたという。
■ロボ面接官、視線もチェック

AIが「面接官」になる日も近いかもしれない。採用コンサルティングのタレントアンドアセスメント(東京都)は今夏にも、ソフトバンクのヒト型ロボット「ペッパー」やスマホのアプリを通して、AIが面接をするサービスの提供を始める予定だ。

サービスが始まれば、学生は好きな場所で、好きな時間に面接を受けられる。AI面接官は「学生時代に熱中したことは」「なぜ」といった質問を投げかけ、学生の回答を視線のぶれなどとともに分析する。回答内容はテキスト化して過去の面接データなどと照合し、「柔軟性」「感受性」「計画力」など11項目で点数化。企業側は、それぞれの採用基準に沿って、次の選考に進む学生を決めるという仕組みだ。
鶏卵生産で全国2位のアキタ(広島県)はAI面接官を導入する方針だ。現在は1次面接を広島と東京で実施しているが、採用担当の鈴木寛彩さんは「会場が限られ、畜産に関する学部がある北海道や東北などの学生を取り逃がしてしまっている」と語る。ただ、最終の役員面接は現行のままで続ける考えだ。穐吉貴則専務は「同じ空間で、面と向かって話すからこそ、分かることがある」と理由を説明する。
大手銀行などのウェブサイトを運用支援する東証1部のメンバーズ(東京都)もAI面接官の採用を検討中だ。同社は市場拡大を見越して新卒者を100人規模で採用しており、1次面接の受験者は約1千人。人事担当の川井健史さんは「面接会場に困るなど、物理的な課題が大きい」と話し、AI導入での解決に期待する。

AIを使った採用を、就活中の大学4年生はどうみるか。都内大学の女子学生(21)は「対面の面接は印象で左右されやすいと思う。AIの公平な基準で決まるのはいい」と好意的だ。一方で、別の女子学生(21)は「どう評価されるのか、少し不安」ともらす。

就職活動に詳しい千葉商科大学専任講師の常見陽平さんは「AIの導入で、企業の採用活動は効率化が進み、学生も出身大学などでなく、個人を見てもらえるようになる可能性がある。ただ、どこまでAIに頼るのか、倫理の問題も含めて考えるべき課題も残っている」と指摘する。(土居新平)
【写真説明】

(左)AI面接での利用が検討されているヒト型ロボット「ペッパー」=東京都港区

(右)パソコンの画面越しに面談をする企業の人事担当者と大学生=5月下旬、東京都新宿区
《朝日新聞社asahi.com 2017年06月05日より抜粋》

 

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