「羊膜バンク」でベンチャー・慶大連携 将来の活用期待
2005年11月17日
赤ちゃんが大きくなって移植手術を受けなければいけなくなった時に備え、捨てていた胎盤の一部、羊膜を取っておきませんか――。そんな「羊膜細胞バンク」が登場した。体内のいろいろな細胞に分化する能力を持つという羊膜の幹細胞だが、現在の医療現場での実用はまだ。「将来の可能性に投資する」ビジネスで、慶応大の研究・診療チームから研究開発の協力も取り付けた。
横浜市のベンチャー企業「バイオ・リジェネレーションズ」(坂上正行社長)が始めた。出産直後、担当医師は羊膜を名刺大に切り取って保存液が入った試験管に入れる。契約者がこれを宅配便で送れば、細胞は培養・増殖の後、冷凍保存される。保存期間10年、9万円(消費税別)で更新も可能という。
同社は10月、慶応大医学部の研究・診療チームと羊膜の採取と研究開発の協力を取り付けた。大学側では来年から系列病院に採取の協力を呼びかけるほか、研究開発面でも支援していくという。
親は赤ちゃん本人の代理人として出産前に契約を交わす。同社では悪用を防ぐため、細胞の使用は本人に限り、預かった細胞を返還する場合は担当医師に限るなど独自の規制を設けている。
契約1号は今年8月。都内に住むバイオ・ベンチャー社長(34)の息子だった。社長は「将来、息子の役に立つならば」と話すが、大病院での採取の実績もなければ学会で太鼓判を押された技術でもなく、かかりつけの産科医はしぶったという。
坂上社長は「慶大との連携が広まれば、一般の産院の理解も進む。将来、再生医療技術の恩恵を受けるには保存しておく必要がある」とバンクの意義を強調する。
羊膜の幹細胞は、骨や心筋、神経などに分化する能力があることは知られているが、実用は発展途上の段階。慶大医学部の清水信義教授(ヒトゲノム解析)は「幹細胞がどんなタイプの細胞に活用できるかなどはまだ解明が進んでいないが、再生医療の将来性は十分に期待できる」と話している。
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〈キーワード・幹細胞〉 様々な臓器や組織になる可能性を持つことから、失われた組織を再生するのに役立つと期待されている。受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)のほか、骨髄などにもあることが知られ、再生医療の研究に使われている。
《朝日新聞社asahi.com 2005年11月17日より引用》