TPPの進路、11カ国に溝 「米国抜きで」「中国も参加を」 15日、米離脱表明後初の会合
2017年03月09日
米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)の今後について、米国を除く参加11カ国の閣僚が15日、南米チリで会合を開く。米国抜きの新協定をめざす国や中国を入れての新協定締結を主張する国があり、思惑は交錯する。日本は全12カ国での発効をめざす姿勢を表向きは崩していない。
「各国の考えをしっかり聞いてきてほしい」。安倍晋三首相は7日、閣僚会合に出席する越智隆雄・内閣府副大臣に対し、関係国から率直な意見を聞くために、二国間での会談を重ねるよう指示した。
会合は、トランプ米大統領の離脱表明後、閣僚らが集まる初めての機会だ。「日本がイニシアチブをとる」と意気込む首相が、まずは意見を聞く姿勢に徹するのは、各国の主張に隔たりが大きく、一致点を見いだせそうにないからだ。
たとえば、オーストラリアとニュージーランドでは、米国抜きの11カ国による新協定(TPP11)をめざすべきだとの意見がある。畜産が盛んで、日本や東南アジアへの輸出が増えれば、米国抜きでも一定の利益が見込める、とみている。
一方、「米国抜きでは意味がない」と訴えるのは、マレーシアやベトナム。両国とも米国への輸出増が期待できると強調し、国内の反対論を押さえ込んだ経緯が影響している。
チリやペルーからは「中国にも参加を促すべきだ」との声があがるが、中国の影響力が強まることに対して東南アジア諸国に警戒感が強い。日本にとっても、台頭する中国を囲い込む「日米同盟の経済版」というTPP本来の意味合いが薄れる。
今回の会合では、11カ国がそれぞれの立場を説明するにとどまり、本格的な意見交換は、5月にベトナムで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合に先送りされる見通しだ。
■日本、「12カ国」強調へ
日本政府は当面、米国を含めた12カ国でのTPPの実現をめざす姿勢を貫く構えだ。チリでの会合では、米国が参加することの重要性を強調し、現在のTPPの批准手続きを進めるよう各国に求める。
政府が「12カ国」の旗を降ろさないのは、トランプ米政権が二国間交渉を重視する姿勢を打ち出していることが影響している。
4月中旬に初会合が予定される「日米経済対話」では、日本が警戒する自由貿易協定(FTA)の協議を米側から持ちかけられ、TPPで合意した規制の見直しを迫られる可能性もある。
仮に日本が米国抜きの「TPP11」を認めた場合、米国に二国間交渉を容認したと受け止められかねない。将来的に二国間交渉は避けられないとしても、12カ国でのTPPをめざす姿勢によって、「TPP並みの水準は譲れない」と主張できる、とみる。
ただ、米国の参加が見込めない中、TPP11によって11カ国の利益を示すことが米国に将来的な参加を促すことにつながる、と唱える声は首相周辺にもある。
12カ国によるTPPを、首相は「さまざまな交渉を積み上げたガラス細工」と表現してきた。内閣官房幹部は「頭をやわらかくして何がベストか考えていく」と話す。(南日慶子、古賀大己)
【図】
TPP参加国
《朝日新聞社asahi.com 2017年03月09日より抜粋》