「パンダ細胞バンク」始動、種の保存へクローン研究 中国
2004年10月18日
- 26頭のパンダの体細胞が保存された「細胞バンク」の缶=成都パンダ繁育研究基地で
- 体細胞が保存された4歳のメスのパンダ=成都パンダ繁育研究基地で
絶滅の恐れが心配されているパンダの故郷・四川省で、「パンダ細胞バンク」が新設された。人工飼育のパンダは異性の愛し方を忘れがちなのが長年の難題。そこでハイテクによる種の保存を始め、未来のクローンパンダを誕生させる研究にも乗り出した。中国メディアの間では、野生環境を守る努力が先なのではないか、との論議も出ているが、関係者は「パンダを未来に残すためにあらゆる手だてを尽くしたい」と懸命だ。
成都市などがつくる「成都パンダ繁育研究基地」が8月末、敷地内に細胞バンクを設けた。試験管に入った26頭の体細胞が、セ氏零下196度の液体窒素で満たされた缶の中で冷凍保存されている。パンダの年齢は5歳が人間の20歳ぐらいにあたり、生後まもないものから最高齢は20歳まで、死亡した5頭の細胞も含めて保存した。
細胞は太ももや唇の裏側から長さ2ミリ程度の皮膚を切り取ったものから取り出し、培養したうえで冷凍。理論的には永久保存も可能とされる。解凍させた細胞を蘇生させる技術もあり、93.3%の確率で蘇生できると同基地はいう。
人工飼育のパンダの繁殖は、中国をはじめ世界各地で努力が続いているが、なかなか壁は厚い。パンダの発情期は年間15日程度しかなく、しかもオスのうち交尾可能な個体は6割だけという。
さらに、野生では交尾の方法を母親から教わる場合が多いのだが、人工飼育ではそうした自然学習の機会が少ない。交尾の方法を知らず、ストレスから性欲を失ったオスも少なくない。同性愛の個体もいるとみられる。
成都の繁殖基地では、思春期を迎えたオスに隣の部屋から仲間の交尾を見学させたり、交尾予定のオスとメスに数日間の「恋愛期間」を設け、においを覚えさせるために互いの部屋を交換させたりしている。
しかし、繁殖が成功しても、1頭のオスから計36頭の子と孫が生まれたケースもあり、近親交配が問題化。多様性が失われ、出産後の生存率も低くなりがちだ。同基地は多様性を確保するためにも、国内外の人工飼育のパンダ全頭の細胞保存を目指しているという。
クローン技術を応用したパンダ増殖計画は、北京の中国科学院動物研究所で進められている。個体数が限られ、実験の機会が少ないこともあり、技術的な課題は数多い。クローンの本格実験はまだ先のようだ。
ただ、中国のメディアの中には、「成功が難しいクローン研究に多額の資金を注ぎ込む前に、パンダが本来暮らす自然環境の保護にもっと力を入れるべきだ」など専門家の批判的な意見を載せたところもある。
それでも成都の基地の候蓉・副研究員は言う。「自然環境を守ることがもちろん大事だが、環境保護を願うだけで、じっとしているわけにもいかない。クローン技術が進んだときに備えて今から細胞を保存する必要がある。100~200年後も、パンダの元気な姿を残したいのです」
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<パンダの危機> 中国の国家林業局の最新の調査では、野生のパンダは中国西部の四川、陜西、甘粛の3省に計1590頭余が生息している。
近年の保護活動の進展で前回88年の調査時より約500頭増えたが、危機は続いており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックでは、近い将来、野生で絶滅の恐れがあるとされる絶滅寸前種(EN)に指定されている。一方、中国国内と、日本、欧米など世界で人工飼育されているのは計161頭。
(10/18 10:11)
《朝日新聞社asahi.com 2004年10月18日より引用》