20161210

TPP漂流必至 見通せぬ通商戦略


2016年12月10日

環太平洋経済連携協定(TPP)が9日、国会で承認された。次期米大統領のトランプ氏の離脱表明で強まる慎重論や反対論を、安倍政権が押し切った。発効が見通せないなか、政府は通商戦略の再考を迫られる。「TPP対策」を名目にした約1兆2千億円の関連予算にも厳しいまなざしが注がれる。▼1面参照

 

「自由貿易の推進に対する日本の固い決意を世界にしっかり発信をすることができた」。菅義偉官房長官は9日夕の記者会見で、承認の意義を語った。発効をめざし、米国を含む各国に働きかける考えも示した。

しかし、TPP離脱を表明したトランプ氏は日本に二国間の貿易協定交渉を呼びかける意向だ。日米が二国間協定を結べば、TPPは発効しない。日本政府内では「交渉に応じることはあり得ない」(内閣官房幹部)という声が大勢だ。

というのも、二国間の交渉に国力の差が反映されれば、かつて自動車などの自主輸出規制をのまされた日米貿易摩擦の再来となりかねない。TPP交渉で譲歩しつつ、関税制度の維持にこぎつけたコメや牛肉・豚肉などは、TPPを超える市場開放を迫られることが必至だからだ。

米国抜きの発効を探る動きもあるが安倍晋三首相は「意味がない」と否定的だ。米国は国内総生産(GDP)で参加12カ国の6割を占める。石原伸晃TPP担当相は「経済効果は半分程度」と説明。政府内では「TPP漂流」との言葉が飛び交う。

こうしたなか、米国が不参加の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は重みを増しそうだ。世界第2位の経済大国の中国を中心とする枠組みで、インドなども参加する。しかし、国有企業を保護する規制などが多い中国は、TPPのような「高レベルの自由化」に応じない可能性もある。(鯨岡仁、南日慶子)

 

■1.2兆円予算、批判も

TPPが大筋合意された2015年秋以降、政府は総額1兆2千億円の事業を関連予算として計上してきた。農業の競争力強化や海外市場を開拓する企業の後押しなどを掲げる。

たとえば畜産・酪農の施設整備の1295億円には、畜舎建設や搾乳ロボットのリース料補助がメニューに並ぶ。14年度までの同種事業の3倍を超える規模だ。野菜の選果場やコメ貯蔵施設の新築費を補助する「産地パワーアップ事業」は1075億円。05年度から続く施設整備補助の交付金制度を存続したまま、この2倍以上を予算に充てた。

政府は「もともと必要な事業」(農林水産省幹部)との立場だが、発効が絶望視されるなか、民進党は「不要不急」と批判。8日の参院特別委員会で、野党議員から関連予算の執行停止を求められた首相は、「(予算は)発効を見据えたものだが、発効を前提としたものではない」と説明し要求を拒んだ。

経済産業省は10月、発効後の関税などを試算できるサイトを設けた。関連事業を含む「制度の普及支援」に約4億8千万円を投じた。担当者は言う。「早めに準備した。まだ発効しないと決まったわけではないですから」(野口陽)

 

【図】

TPPをめぐる日本の通商政策の見通し

 

《朝日新聞社asahi.com 2016年12月10日より抜粋》

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です