社説■BSE――落ち着いてナゾ究明を
2003年10月08日
牛海綿状脳症(BSE)の感染経路は2年前に断ち切ったはずではなかったのか。
水も漏らさぬ対策をとった後に生まれた若い牛が、日本で8頭目のBSEと判定された。農家や消費者に驚きと不安が広がっているのも無理はない。
この牛は食肉処理された生後23カ月のオスのホルスタインだった。BSEの原因はたんぱく質の一種の異常プリオンだが、今回のプリオンはこれまでとは違う型であることもわかった。
異常プリオンは主に脳や脊髄(せきずい)にたまる。ところが、脳など食用にならない部分は、加熱処理して粉末にし、長い間エサとして利用していた。この肉骨粉がBSE感染拡大の主因とされている。日本で初めて感染牛が見つかった2年前、政府は肉骨粉の輸入、使用、販売を完全に禁止した。
その後に見つかった7頭目までのBSE牛は、いずれも肉骨粉の禁止が徹底される前に生まれていた。これらの感染源について、農水省のBSE技術検討会は先月末、「80年代に英国から輸入された生きた牛や、90年以前にイタリアから輸入された肉骨粉の可能性が高い」という最終報告を出している。
今回見つかった感染牛は、肉骨粉の禁止が徹底された後に生まれている。想定していなかった事態を受けて、農水省は技術検討会で原因究明を始める。
まず確かめなければならないのは、今回の牛の飼料に肉骨粉が混じった可能性があるかどうかだ。
BSEが大量に発生した英国でも肉骨粉の使用を禁じたあとに感染が起きている。これは農家に残っていた古い肉骨粉を食べたのが原因ではないかと疑われている。
日本では、肉骨粉の使用が禁止された後も、食用に使えない部分を焼却しやすいように、いったん粉末にしている。これが何らかの原因で飼料に混じることがなかったか、早急に調べなければならない。
とはいえ、いたずらに不安がることはない。私たちの口に入る肉や牛乳に心配はない。危ない脳や脊髄は食用から除かれている。そのうえ食肉処理の段階ですべての牛を検査していることを考えれば、安全には「二重のカギ」がかかっているのだ。感染牛はこれからも見つかるだろうが、落ち着いて受け止めたい。
若い牛はたとえ感染していてもプリオンの蓄積が少なく、検査してもほとんど検出されない。このため、欧州連合(EU)では30カ月以上の牛の調査を義務づけ、念を入れているドイツやフランスでも24カ月以上が対象だ。今回の発見は、日本の全頭検査が功を奏したともいえる。
日本では2年前にBSEパニックが起きた。その後、発生が意外に少なかったことで関心も薄れかけていた。
そこへ今回の感染牛だ。BSE問題が終わっていないことを改めて教えてくれた。
《朝日新聞 2003年10月08日より引用》