鳥インフル、厳戒態勢 青森・新潟、32万羽処分 【西部】
2016年11月30日
青森県と新潟県で死んだ食用アヒル(フランス鴨〈かも〉)やニワトリが相次いで見つかった問題で、青森、新潟両県は28日夜から29日にかけて、遺伝子検査の結果、高病原性鳥インフルエンザと判断したと発表した。いずれも「H5亜型」のウイルスが検出され、鳥の殺処分が始まった。
農林水産省や両県によると、殺処分の対象は、青森市の農場のアヒル約1万8千羽と新潟県関川村の養鶏場のニワトリ約31万羽。青森では29日夜に殺処分を終えた。青森市の農場から半径3キロの範囲にある4戸の計約1万4千羽の移動が禁じられ、3~10キロの範囲にある3戸計約40万羽は出荷や運び出しが禁じられた。関川村の養鶏場の周囲でも約60戸約50万羽の移動や運び出しが禁じられた。
政府は29日午前、首相官邸で関係閣僚会議を開き、対策の徹底を確認。農水省は専門家でつくる小委員会を開催した。会議後、委員長の伊藤寿啓(としひろ)・鳥取大教授は「今回の特徴は事前に野鳥での流行が確認されていること。リスクが高まっていた」と述べた。
野鳥の感染について調べている環境省は、鳥インフルが確認された両県の農場や養鶏場の半径10キロを監視重点区域に指定。調査チームを派遣し、周辺にウイルスに感染した野鳥がいるかどうかなどを調べる。環境省は今月に入って国内複数の地点でウイルス「H5N6亜型」が検出されたため、警戒のため調査の対応レベルを最高の「レベル3」に引き上げていた。29日も、宮城県がマガン1羽の死骸から「H5N6亜型」のウイルスが確認されたと発表した。青森県内でも死んだ野鳥から鳥インフルの陽性反応が出ている。
殺処分が決まった青森市の農場では、防護服の県職員が次々と敷地内に入った。農場の男性経営者(52)は「生き物を育て、食用にすることの難しさと責任を感じながら仕事をしてきたが、みなさんに迷惑をかけることになった」。ネットを張るなど感染防止に努めてきたといい、「どのように防げばいいのかわからない」と疲れをにじませた。
新潟県関川村では、災害派遣要請を受けた陸上自衛隊員も含めて延べ約3100人が作業にあたる。村内で養鶏業を営む女性は「心が泣いている。同じ業者だから気持ちがわかる」と話した。
■九州・山口 消毒徹底「農場を死守」
養鶏が盛んな九州・山口の関係自治体や養鶏農家は29日、緊急の対策会議を開くなど警戒を強めた。
ツルやそのねぐらでウイルスが相次ぎ確認された鹿児島県出水市では、22~24日に見つかった野鳥のツルやカモ計6羽から新たにH5N6亜型ウイルスが確認され、29日に環境省が発表した。県はこれまで、感染した鳥の発見地点から半径3キロ内の養鶏場で、鶏の大量死や鶏舎の防疫上の不備がないか調査。29日までに47カ所を調べたという。
現在のところ異常はないというが、県は「ウイルスが侵入しないよう、消毒を徹底してもらうしかない」。養鶏農家15戸が加入する赤鶏農協(出水市)の田下豊組合長(60)は「人事を尽くして天命を待つだけ」と話す。
出水市と接する熊本県水俣市は独自の対策として、飼育する鶏が100羽未満の小規模農家にも消毒用石灰を配布している。宮崎県は29日、緊急防疫会議を開催。出席した畜産会社員は計約36万羽を飼育する農場のネットを防疫効果が高いものに取り換え、消毒も再度徹底したという。「万全の対策でウイルスから農場を死守しなければ」
山口県長門市の深川養鶏農協は「鹿児島や鳥取でも見つかり囲まれた感じ。脅威です」。市内39鶏舎への巡回を、1シーズンに1回から月1回に増やすなど、厳戒態勢を取る。
長崎県は出水での事態を受け、主要な養鶏農家への電話調査などをしてきたが、青森、新潟で新たにウイルスが見つかったことで「定期的な異常確認が必要。対応を検討している」(畜産課)。大分県と佐賀県も29日、緊急の防疫対策会議を開いた。
■国内の主な高病原性鳥インフルエンザの発生状況と殺処分数
<発生時期> 発生地域 【殺処分数】
*
<2004年1~3月> 山口、大分、京都 【約27万羽】
<07年1~2月> 宮崎、岡山 【約17万羽】
<10年11月~11年3月> 島根、宮崎、鹿児島、大分、奈良、和歌山、愛知、三重、千葉 【約183万羽】
<14年4月> 熊本 【約10万羽】
<14年12月~15年1月> 宮崎、山口、岡山、佐賀 【約36万羽】
(農林水産省の資料から)
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【写真説明】
鳥インフルエンザに感染したニワトリが見つかり、消毒作業が続く養鶏場=29日、新潟県関川村、本社機から、嶋田達也撮影
《朝日新聞社asahi.com 2016年11月30日より抜粋》