20161118

米抜きTPP模索 混乱の恐れも APEC閣僚会議


2016年11月18日

アジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議が17日、ペルー・リマで始まった。あわせて環太平洋経済連携協定(TPP)参加国の会合も開かれるが、トランプ米次期大統領は離脱を公約しており、発効に不可欠な米国の承認は絶望的だ。参加国からは「米国抜き」で発効する案も出ているが、米国を中心につくりあげた「ガラス細工」だけに簡単ではない。

 

日米など12カ国が妥結したTPPは、APEC加盟国全体が入るアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)へと向かう道筋の一つと位置づけられている。

「米国抜き」の発効をめざす動きも出てきた。メキシコのグアハルド経済相は10日、ロイター通信の取材に、米国がTPPを承認しない場合は「条項の変更を他の参加国と話し合う必要がある」と語った。APECの議長国であるペルーのクチンスキー大統領もロシアメディアに、「米国抜きの同様の協定に置き換えられる」と意欲を示した。

米国抜きのTPP発効は可能なのか。豪州の元貿易交渉官で米ブルッキングス研究所のジョシュア・メルツァー氏は「条文を変える必要があるが、手続きとしては可能だろう。米国が抜けるのは痛手だが、11カ国で進める十分な動機はある」と見る。

ただ、TPPは12カ国が利害をぶつけ合い、妥協し合いながら合意に至った。米国との交渉で合意した内容を他の国に適用するといったことを重ねた「ガラス細工」といえる。

たとえば、日本のコメの場合、米国に7万トンを、豪州に0・84万トンの輸入枠を与えた。米国が抜ければ、豪州がさらなる要求を突きつけてくるかもしれない。  ベトナムは米国への衣料品輸出が有利になるとみて、米国の要求に応じて国有企業の改革などを受け入れた。

TPPでは、海外に進出した企業が不当な扱いを受けた場合に相手国を訴えることができる「ISDS条項」が米国の主張で盛り込まれたが、参加国からの反発が強い。米国が離脱すれば、同条項などを「外してほしい」と議論を蒸し返す国も出てきかねない。

内閣官房幹部は「1カ所をいじると、収拾がつかなくなる」と話す。

 

■米国内に日米協定望む声

米国では、TPPが発効できない事態を見越して、日本との自由貿易協定(FTA)を望む声が出始めた。

TPPを推進してきた共和党のハッチ上院財政委員長は16日、米メディアに対し、「次期大統領はTPPを支持しないと言っており、我々の代替案は日本との協定になるだろう」と指摘。トランプ氏に提案する考えを示し、「次期大統領が検討してくれることを期待する」と語った。

牛肉など農畜産物の輸出額が全米2位のアイオワ州のブランスタッド知事も17日、東京都内で記者会見し、日米二国間で経済連携に関する協定が結ばれることに期待感を示した。

一方、日本はあくまでトランプ氏に再考を促し、米国を含むTPP発効をめざす。TPPは米国をアジア太平洋に引き留め、台頭する中国を日米が共同して囲い込む「日米同盟の経済版」という意味合いが強いからだ。安倍晋三首相は17日にトランプ氏と会談。APECでも「首脳同士でしっかり発効させようという意思を確認し合いたい」(15日の国会答弁)という。

日本は、米国との個別の協定には否定的だ。経済産業省幹部は「いま交渉を始めたら、かつての日米貿易摩擦が再来するだけだ。絶対にやらない」と話した。

(五十嵐大介、鯨岡仁=リマ、石橋亮介)

 

【図】

米国が抜けたTPPは?
《朝日新聞社asahi.com 2016年11月18日より抜粋》

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