(あおもり 探)八甲田牛、増産難しく 繁殖拠点老は朽化、年30頭が限界 /青森県
2016年10月30日
青森市の八甲田山ろくで育てられている和牛「八甲田牛(ぎゅう)」の行方が危ぶまれている。赤身主体の肉質でヘルシーな牛肉として親しまれてきたが、青森市の繁殖施設が老朽化。増産を求める農家の声に応えられないままという。
■子牛購入に市助成案
青森市の中心部、中三デパート向かいの路地裏にある飲食店「季楽(きらく)」。八甲田牛サーロイン和風ステーキは1日3組限定の特別メニューだ。 店主の長尾裕幸さん(43)は、実家が市内の精肉店。家で知らずに食べ、そのおいしさに驚いたのが八甲田牛だった。長尾さんは「人それぞれの好みだが、僕らの年になると、脂っこい肉より赤身がいい。実家に八甲田牛が入るうちは、使っていきたい」と話す。
市によると、八甲田牛とは、北東北や北海道を中心に飼育されている和牛「日本短角種」=キーワード=のうち、八甲田のふもとで育った牛のこと。生後18~36カ月で出荷される。
5~10月は標高約500メートルの八甲田牧場に放牧し、自由に牧草を食べさせることでストレスを抑える。11~4月は、山里の牛舎で育てる。この「夏山冬里方式」のおかげで、体が丈夫で病気に強いという。
繁殖の拠点となっているのが、八甲田のふもとの同市合子沢にある市農業振興センター(旧畜産振興センター)。ほとんどの子牛がセンターで生まれ、八甲田牛を育てる市内の畜産農家4軒に販売されている。センターの獣医師松浦貢さんによると、2015年にはセンターから36頭が販売された。
八甲田牛の肉質は赤身が主体で、低カロリーであることから、市内のスーパーなどでも消費者の人気が高まっているという。八甲田牛を育てている畜産農家からセンターに対しては、「あと20頭ほど多く子牛を販売してほしい」との要望がある。
ところが、センターは開設から半世紀が経ち、設備の老朽化が目立ってきた。このため、近年の30頭ほどの生産を維持するのが精いっぱいで。さらに20頭増やすのは到底難しいという。
市農林水産部の金沢保部長によると、生産数増加に対応するには、全面的な施設更新が必要で、少なくとも数億円の費用が見込まれる。市の財政事情が許さず、増産は難しいと判断しているという。
市は代替案として、日本短角種の子牛を扱う県内や岩手県などの家畜市場から農家に子牛を供給してもらい、市が助成金を出す方法を検討している。だが、北東北では繁殖農家が担い手の高齢化などで減少傾向にあり、子牛の上場頭数も減少。この結果、消費者の人気もあって、子牛の市場価格は上昇傾向にあるという。
おかげで、市が助成額として見込む予算では足りなくなり、畜産農家が求める頭数を確保できない状況になっている。助成金方式を補うために、市が直接市外の繁殖農家から子牛を買い取り、市内の農家に供給する方法も検討している。
金沢農林水産部長は「八甲田牛ブランドの維持や向上のためには、市内の農家へ安定的に子牛を供給する必要がある。40頭の購入の助成を見込んでいるが、あまり高くなると、ほかに確保する方法を考えないといけない。できるだけ多く子牛を引き渡せるようにしたい」と話している。(成田認)
◆キーワード
<日本短角種> 北東北原産の南部牛と、米国産「ショートホーン種」などを交配して改良がすすめられた肉用種。北日本の気候に適合し、野草を食べる能力に優れる。毛色は濃褐色。夏は山に放牧すればいいので、農家の手間がかからない。八甲田牛は1993年に商標登録された。
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あおもり 探(たん)
【写真説明】
市農業振興センターで育てられている子牛=青森市合子沢
季楽の限定メニュー「八甲田牛サーロイン和風ステーキ」。ゆずこしょう(右)と、たれのセットで1200円だ=青森市古川1丁目
《朝日新聞社asahi.com 2016年10月30日より抜粋》