偽装鶏肉の裏側 「国産化け」生む土壌(検証)
2002年03月15日
牛肉、豚肉に続いて鶏肉も。偽装が横行する背景には何があるのだろうか。 (高田圭子)
「単価が安く、表示を偽っても利ざやは知れている」と見られていた鶏肉でも、相次いで偽装が発覚した。
だが、業界にとっては決して寝耳に水の話ではなかった。
「米国からの輸入鶏肉がディスカウントショップで国産化けして売られている」。約6年前、そんなうわさが九州を中心に飛び交った。
外国産鶏肉のほとんどは冷凍して持ち込まれるのに対し、国産はふつう凍結されない。鶏肉の小売団体幹部は「解凍品を国産と偽っても、プロなら状態と価格から大体の見分けがつく。うわさの信ぴょう性は高かった」と話す。
日本人は「大変なもも肉好き」だ。もも肉とむね肉の消費割合は7対3で、もも肉不足を外国産で補ってきた。だが「輸入肉は消費者に敬遠される。だから外国産のほとんどは加工食品用にまわるが、その安い肉に廉売店が目をつけたのだろう」と団体幹部はみる。
加えて中国産の「チルド鶏肉」が急増した。距離が近いだけに冷凍させずに0度前後で冷蔵したもので、これだとプロでも見分けにくくなる。
このため97年、ブロイラーの処理業者や流通、小売りの各業者が加盟する日本食鳥協会は「適正表示推進委員会」を設けた。同年夏に初めて5道府県の約300店を調べたところ、43店に「表示に見合わない安い値段」などの問題あるケースが発覚。協会は、表示を取り締まる食肉公正取引協議会に指導を頼んだ。
だが、99年秋の調査でも、6都府県136店の半数近くに、輸入肉の原産地や解凍・凍結品の表示がないといった例が続出。協会は協議会と連携し、悪質と判断した九州の10店には文書警告に踏み切った。
今年度は17都府県121店を調査、問題のあったのは8店だった。ぐっと減った形だが、そこに加工段階での偽装が飛び出してきた。協会は「今後は店頭表示だけでなく流通段階まで目を配る取り組みを徹底したい」と話す。
○特売で大量注文、欠品恐れ…
公正取引委員会関係者は「今回露見したケースがそうだというわけではない」と断った上で「スーパーや生協などに『○○の銘柄でこれだけの量をいくらで』と提示されると、そのランクに合わせて輸入肉を混ぜることがまま行われてきたようだ」と、業界全体の「土壌」を問題視する。
認める卸売業者は多い。
東京都内のある中堅卸売業者は「今月特売を組みたいから、○○産をキロ△△円で×トン集めて」といった発注が、突然来ることが少なくないと言う。発注主が大手スーパーやディスカウント店の場合、地域一帯で特売日が同じだったり、全国一律だったりする。たちまち品薄となり、値は上がる。当初示された値段では見合わなくなる。「そこに安い輸入肉をもぐり込ませる誘惑が生まれる」と打ち明ける。
「もし断れば、他社は入れられるのに、なんであんたのところはダメなんだ、ペナルティーだと言われる。扱い量がけた違いに多いから契約を切られると痛い」
別の業者も「『欠品だ』と言われるのが怖い。罰としてキャンセルされたら、買い集めた肉を膨大な在庫として抱えることになる」と話した。
食鳥協会にも会員業者から同趣旨の相談や苦情がいくつも寄せられているという。「今までは個々の話は当事者同士で解決してくれといってきた。が、本当に表示を守る環境をつくるには、量販店の団体などに訴えていくことも検討したい」
一方で、畜産関連の複数の研究者はこんな指摘をする。
「よく『無薬飼育』をうたった商品を見るが、抗生物質を全く使わないエサで育てるには実験場並みの設備とコストがかかる。しかも下手すれば全滅する。ビジネスにするなら値段は相当高くしないと見合わない」。そういった銘柄モノが安値で大量に出回ること自体、本来あり得ない、というのだ。
鶏肉の小売団体幹部も頭を下げつつ「消費者も、安ければ、国産銘柄なら、と飛びつかないで。おいしくないと感じた肉を売った店には行かないで下さい。まともな表示をしている店を育てる気持ちを持って頂ければありがたい」と話した。
◇正しく鶏肉を見分けるには
産地などが正しい表示かどうか、価格に見合った新鮮な肉かどうか。東京都内に専門店を構え、鶏肉を扱って40年以上というプロに、見抜き方のポイントを聞いた。
【表示】外国産鶏肉は一部中国産を除き、凍結品か解凍品(表示義務有り)。国産は凍結されない「生鮮品」。
【値段】価格は必ず品質に見合っている。「安さ」に振り回されないで。
【肉汁】外国産の解凍品を国産と偽っている時の目安のひとつ。鮮度が落ちると赤い肉汁がよく出るようになる。
【弾力】パックの上から軽く押して、硬い感触があれば新鮮。古いと張りがなくなる。
【毛穴】毛穴(ぼつぼつ)の盛り上がりがはっきり見えていると鮮度が高い。
【切り口】ジャンボレッグと呼ばれる米国産もも肉は、機械処理のため、上部が点線のようにスパッと切れ、欠けている。
【色】古くなるとピンク色がさめて白っぽくなり、部位によっては黒ずんだ赤色になる。
《朝日新聞 2002年03月15日より引用》