20020220

ヒトでも卵子若返り 都内病院で受精 遺伝情報継ぐ子、高齢妊娠も


2002年02月20日

妊娠が難しい40代女性の卵子を、核を除いた20代女性の卵子で若返らせ、受精させる実験に、産婦人科医院「加藤レディスクリニック」(東京都新宿区、加藤修院長)が成功していたことがわかった。卵子若返りは高齢不妊の治療法になる可能性があり、第三者からの卵子提供が国内でも認められる方向にあることから、複数の医療機関が同様の研究を進めている。しかし、安全面や倫理面の課題も多い。

同クリニックによると、40代女性の卵子の核を、核を除いた20代女性の卵子14個に移植した。うち6個が成熟し、5個で体外受精に成功した。1個は胚盤胞(はいばんほう)の段階まで成長した=図。現在、この胚盤胞は凍結保存されており、今後、安全面の問題などが解決すれば、子宮に戻すことも検討するという。

研究には20代、40代の計40人の女性が同意し、協力した。高齢女性の卵子は受精しても着床が難しく、妊娠率が極端に低い。卵子の細胞質の劣化が一因とみられている。これまで高齢不妊の女性は、外国などで卵子の提供を受けて妊娠・出産するしかなかった。若い細胞質を使って卵子を若返らせれば、自分で妊娠し、自分と同じ遺伝情報をもつ子どもを産める可能性が出てくる。

卵子若返りには、若い第三者からの卵子提供が必要になる。厚生労働省が来年の法制化を目指す生殖補助医療のルール作りでは、条件付きで認められる見込みだ。ただ、当面は提供を受けられるのは卵子のない人に限られる方向で、今回のようなケースの扱いは今後、検討されることになりそうだ。

このため、将来の応用を視野に、動物実験も含めて研究が進められている。加藤レディスクリニックも牛を使った若返り実験を行い、19日深夜、雄1頭が岩手県の農場で生まれた。

しかし、人への応用には安全面、倫理面で課題も多い。核を抜いた若い卵子に残る細胞質内のミトコンドリアDNAにも卵子提供者の遺伝情報が残るため、生まれた子どもは不妊夫婦と卵子提供者3人の遺伝情報をもつことになる。倫理的な問題のほか、子どもが無事成育するかわからない。また、細胞質に由来する病気もある。

さらに、核を入れ替える技術はクローン技術の一部でもある。クローン動物の研究をしている今井裕・京都大農学部教授は「クローン動物でも様々な異常が起き、原因は解明されていない。動物実験で出産に成功しても、人間への応用には、相当慎重な検討が必要だろう」と話している。

●安全面での調査必要

<生殖医療の法制化作業を進める厚労省生殖補助医療部会委員の金城清子・津田塾大教授(生命倫理)の話> 高齢で妊娠できない人には朗報だろうが、次々出てくる技術に社会がどう対応したらいいのか検討が必要だ。卵子若返りは米国でも(別の方法で)実施され妊娠、出産しているが、本当に安全なのか、調査が必要だ。厚労省の部会でも、こうした技術に第三者の卵子を提供することが許されるのか、検討すべきだろう。法律制定後でも審査機関の新設が必要だと思う。

 

《朝日新聞 2002年02月20日より引用》

 

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