20020104

英社と米韓チーム、クローン豚の拒絶反応抑制 移植用臓器開発加速


2002年01月04日

【ワシントン3日=大牟田透】遺伝子を操作して、異種間の臓器移植で問題となる激しい拒絶反応を抑えたクローン豚を誕生させることに、英国のバイオ企業と、米韓の研究チームが相次いで成功した。豚の臓器は、移植用の臓器不足を解消する切り札とされる。未知のウイルスが潜む可能性などなお未解明の課題はあるが、移植用臓器の開発競争が加速しそうだ。

世界初のクローン羊「ドリー」の誕生にかかわった英国のバイオ企業「PPLセラピューティクス」が2日、発表したのに続き、米ミズーリ大と韓国の国立家畜研究所などのチームも3日、米科学誌サイエンスの電子速報版に発表する。生まれたのはいずれもミニ豚の雌で、それぞれ5匹と4匹。順調に育っているという。

ミニ豚の臓器は、大きさや働きが人にちょうど合うとされ、人への移植用臓器として期待されている。だが、移植後、人の抗体が豚の臓器細胞の表面にある「アルファガラクトシル」と呼ばれる抗原と反応して、数分のうちに激しい拒絶反応を起こす問題があった。

両チームは、豚の胎児細胞の遺伝子を操作して、この抗原をつくる遺伝子を壊した。この細胞の核を、核を除いた豚の卵子に入れ、その遺伝子の働きを抑えたクローン豚を誕生させた。対になっている遺伝子のうち、壊されているのは片方だけだが、両方とも壊す研究も進められている。

PPL社は00年3月、世界で初めてクローン豚を誕生させた。今回の技術の応用として、今後、豚のインスリン分泌細胞を霊長類に移植する実験を行い、4年以内には人に移植して、糖尿病治療の臨床試験を始めたいとしている。

米韓チームには大手製薬企業が協力、実用化をめざしている。

○異種移植実現へ安全性など課題

《解説》腎移植など臓器移植を希望する患者は日本でも欧米でも多いが提供される臓器の数が足りない。これを根本的に打開しようというのが動物の臓器を使った異種移植だ。英企業などが特定の遺伝子を働かなくしたクローン豚を誕生させたことは異種移植実用化への扉を開くものだ。PPL社は臓器移植用だけで50億ドル(約6500億円)以上の市場とみる。

異種移植はこれまでも米国でヒヒを使った肝移植などが試みられたことがあるが、激しい拒絶反応の壁にはばまれて実用化に至らなかった。

最近、遺伝子操作やクローン技術の発達で拒絶反応がおきにくい移植用臓器の開発が現実のものとなってきた。

豚からの移植で最大の難関が「超急性拒絶反応」。人から人へ移植する場合に問題になる急性拒絶反応より激しく、移植して数分で臓器がだめになる。通常の免疫抑制剤では抑えられない。この大きな原因が、豚にあって人にはないアルファガラクトシルという抗原で、人の血液にはこの抗原に対する抗体が含まれている。

ただ、異種移植の実用化には課題も多い。豚がもともと持っているウイルスが人に感染して新たな病気にならないかなど安全性の確認が欠かせない。狂牛病(牛海綿状脳症)を起こすプリオンなど人獣共通感染症にはまだなぞの部分も多く、十分な検討が必要だ。

(科学部・浅井文和)

 

《朝日新聞 2002年01月04日より引用》

 

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