20160813

(西発見)畜産王国、エコに発電中 牛・豚のふん→発酵させガスに 【西部】


2016年08月13日

家畜のふんなどで電気をつくる「バイオガス発電」=キーワード=が九州でも注目を集めている。「やっかいもの」を活用し、電気に限らない恩恵を地域にもたらす可能性を秘める。コスト高など課題も多いが、畜産王国の新しい再生可能エネルギーに育つか。

 

宮崎県都城市にある高千穂牧場。小高い丘には牛舎が並び、休日には牛の乳搾りや乗馬体験を楽しむ家族連れでにぎわう。一方、少し離れた一角にある緑色のとんがり屋根の建物では毎日黙々と、電気がつくられている。

実はこの建物、牛のふんを使ったバイオガス発電所だ。牧場で飼育する乳牛のふんを集め、「発酵させて発電します」と担当の中島康弘さん。牧場は乳性炭酸飲料の「スコール」で知られる南日本酪農協同(都城市)のグループで、12年前から発電を始めた。九州でも先駆例だった。

成長した乳牛は1日60キロのふん尿を排出するとされる。約60頭の牛が出すふんをベルトコンベヤーのような機械で毎日、発電所まで運ぶ。150日間、発酵させ、発生したメタンガスで発電機を動かす仕組みだ。

バイオガス発電は日本全体の発電量に占める割合は1%にも満たないが、全国的に増えつつある。

資源エネルギー庁によると、全国のバイオガス発電所は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を使って電力会社に電力を売っているところだけで今年3月末に92カ所あり、うち九州には7カ所ある。さらに数年以内に稼働予定のところを含めると全国で165カ所になり、九州では12カ所まで増える。

 

■肥料・雇用…地域に恩恵も

バイオガス発電の課題はコストだ。資源エネルギー庁の2012年の試算では1キロワット当たりの建設費は392万円と太陽光発電(10キロワット以上)の32・5万円を大幅に上回っている。

北海道バイオマスリサーチの菊池貞雄社長は「発電の利益だけを考えれば採算に合わない」と指摘。発電以外の「副産物」のプラス面にも目を向けるべきだと主張する。

例えば、高千穂牧場ではバイオガス発電でまかなえる電気は牧場で使う分の半分ほどで、規模はそう大きくない。一方、ふんを発酵させるときにできる液体肥料を、飼料を育てる農地に使うことで肥料代も減った。密閉タンクで発酵するため臭気も発生しない。高千穂牧場の中島さんは「発電だけでなくこうしたメリットが大きかった」と話す。

大小23の島々からなる鹿児島県長島町。人口約1万1千人の町で7月、バイオガス発電会社の「長島大陸エネルギー」が発足した。地元漁協や養豚農家、信用金庫などが出資し、18年度にも発電を始める。

「電力は町外から買うだけだったが、うまくいけば年に数億円分の恩恵が地域内に循環し、雇用も生み出せる」。6月下旬の発起人会議で、井上貴至副町長はこう期待を語った。町内の養豚農家の協力を得て約5万頭の豚のふんを集める。九州電力に売ることをめざすほか、液体肥料は地元農家に使ってもらいたいと考えている。

自治体に支援の動きも出ている。鹿児島県は施設整備に必要な調査を補助するため、16年度予算に300万円を計上した。九州経済調査協会の島田龍・研究主査は「畜産が盛んな九州は全国でも北海道に次いで、バイオガス発電が広がる潜在力が高い」と語る。(柴田秀並)

 

◆キーワード

<バイオガス発電> 家畜のふんなどを発酵させて出たメタンガスで電気や熱をつくる。食品の廃棄物や木材といった「バイオマス(生物資源)」を燃料にする発電の一種。同じ再生可能エネルギーでも、太陽光発電のように時間や天候に左右されず発電できる利点がある。発電によって二酸化炭素(CO2)を増やさず、環境にも良いとされる。

 

【写真説明】

(上)牧場の隅にあるバイオガス発電所

(下)高千穂牧場で飼育される乳牛。ふんはバイオガス発電の「燃料」になる=いずれも宮崎県都城市、柴田秀並撮影

 

《朝日新聞社asahi.com 2016年08月13日より抜粋》

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