安全確認、急ぐ業界 国産牛にも狂牛病感染の疑い
2001年09月11日
国内でも乳牛が狂牛病に感染していた疑いがあることが10日公表されたのを受けて、流通各社や外食産業、食品メーカーは自社の仕入れルートを確かめるなど対応に追われた。90年代に狂牛病の被害が拡大した欧州ではパニックが起きたが、牛乳の人への影響はないとされ、各社とも安全を強調した。まだ断定されたわけでもない。それでもイメージダウンを心配する声が出る一方、消費者団体は「きちんと情報公開を」と求めている。
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■流通
大手スーパーのダイエーは「国産牛は鹿児島、岩手両県の牧場で生産しているが、念のため流通ルートを確認する」としている。イトーヨーカ堂も各店で販売している牛肉の生産地を緊急に調査。千葉県産の牛肉は扱っていないことを確かめた。マルエツも取引先、メーカーに流通ルートを確認。顧客からの問い合わせに備えた想定問答集も考えている。
国内最大の生活協同組合のコープこうべ(本部・神戸市)も「扱っている国産牛はすべて他県産」。5年前の英国の狂牛病騒ぎの際は全店の牛肉売り場に「英国牛は使用していません」とのポスターを出した。担当者は「もし組合員たちの不安が大きくなれば、再びポスターを掲示するなどの対策も考える」と言う。
■メーカー
大手ハムメーカー関係者は「オーストラリアや米国など扱っているのは輸入牛が大半なので、影響は分からない。慎重に事態を見守りたい」。別のメーカーも「イメージダウンによる売上高減が予想される」と影響を懸念している。
明治乳業(本社・東京)では一報を受けてすぐに、生乳購入、品質管理、営業などの担当部署の代表が集まって協議に入った。「農水省が発表しているように牛乳は安全だと認識している。今後は行政からの指示を踏まえて具体的な対応を考えたい」としている。
他の乳業メーカーも流通経路を調べる一方、消費者への対応などを考え始めた。
■外食産業
ハンバーガー、牛どん、焼き肉などの外食業界は、いずれも「材料肉は安全な外国から輸入したものなので心配ない」と、影響を否定している。
日本マクドナルドの使用牛肉はすべてオーストラリア産という。同社広報部は「オーストラリアは政府指定の獣医師がすべての牛をチェックするなどの防疫体制が整っている。うちには影響ない」と話す。
ロッテリアもすべてオーストラリアや米国からの輸入というが、「安全性をPRするが、病原性大腸菌O(オー)157騒ぎのように、消費者がさっと引く心配がある。業界全体で消費者対策に取り組む必要がある」。
ファミリーレストラン大手のデニーズジャパンもすべて外国産という。「O157のときはブタやトリの料理に代えるという客がほとんどで、売り上げが急激に落ちはしなかった」と話す。
牛どんチェーン最大手の吉野家ディー・アンド・シーはすべて米国産で、広報部は「米国は検査が厳しく、安全性は問題ない」と話す。
■産地
高級和牛の産地で知られる三重県松阪市。そこを中心に12市町の生産者で作る「松阪牛生産者の会」(会員約75人)の久保巳吉会長は「今までよその国のこととばかり思ってたのに。何としてでも食い止めてもらわねば」と話した。肉用和牛を約1500頭飼育している同県四日市市の門脇和生さんも「日本ではないと思っていた。うちは独自の飼料配合をしているので不安はないが……」。
米沢牛などの産地を抱える山形県農畜産振興課も「日本はリスクが少ない国とされてきただけに非常に驚いている。国の指導に基づいた検査を進めたい」としている。
昨年3月に牛の悪性伝染病、口蹄疫(こうていえき)が発生した宮崎県では終息から1年余りたった今も価格の下落という影響が残る。同県で和牛800頭を飼育する男性は「やっと相場が上向いたのに、これでだめになる」ともらした。
●消費者団体「情報提供を」 農水省に質問状提出へ
日本消費者連盟(東京都目黒区)の富山洋子代表運営委員は10日夕方、報道関係者から知らされた。「いずれ日本でも出ると思っていたことが、現実になってしまうとは」と驚く。
「飼料、飼育方法などをきちんと調査し、徹底した原因究明をしてほしい。生乳は安全といわれているが、問題の乳牛からとれた生乳の出荷ルートや販路を消費者に公表すべきだ」と話す。
連盟では今後、生産農家の公表や飼育方法の見直しについて農水省に質問状を出す。
全国消費者団体連絡会(東京都千代田区)の日和佐信子事務局長も「消費者側は何をすればいいかといった情報こそ知りたい」とし、的確な情報提供などを同省に申し入れることを検討している。
●「人に発生、可能性小さい」 環境団体事務局長
今年3月、英国の農業、消費者団体を取材した環境保護団体、日本子孫基金(東京)の小若順一事務局長は「英国では牛の狂牛病が18万頭以上なのに対し、人の発生は100人程度で、1頭程度で日本で人に発生する可能性は極めて小さい。牛乳は欧州連合(EU)で『大丈夫』と評価されていた。これを機に国産飼料を増産すべきだ。コメは余っているし、方法はある」と話している。
《朝日新聞 2001年09月11日より引用》