20010617

体細胞クローン動物、遺伝子スイッチに「混乱」 人への応用に危険


2001年06月17日

体細胞クローン動物は成功率が低く、生まれてもさまざまな病気で長生きできないことが少なくないのは、遺伝子の「スイッチ」の混乱が原因ではないかと、東京大と米ハワイ大のグループが発表した。クローンマウスでは、遺伝子の働き方を左右するスイッチの入り方が違うことがわかった。クローン人間づくりには未知の危険が潜んでいることを示す結果だ。

 塩田邦郎・東京大教授、柳町隆造・ハワイ大教授らが米専門誌ジェネシス6月号に発表した。

体細胞クローンは、体細胞の核を未受精卵に移植して作る。塩田教授らは遺伝子のスイッチの入り方に着目、クローンマウス2匹と普通のマウスで、違いを調べた。その結果、胎盤や皮膚などの細胞で4カ所が違っていた。クローンマウス2匹の間にも違いがあった。

スイッチの役割をするのは「メチル基」という炭素と水素でできた分子で、DNAにくっつく(メチル化)と、その場所の遺伝子が働かなくなる。このスイッチの制御によって特定の細胞では特定の遺伝子だけが働くため、同じ遺伝情報をもった細胞が、ある場所では肝臓になり、別の場所では脳になったりする。

また、がん細胞ではこのスイッチが狂っているものもあることも最近わかってきている。

受精卵は、あらかじめ決まった順番でスイッチが入って、皮膚や心臓など体の組織を作っていく。クローンはすでに組織になった細胞から遺伝子を取るため、例えば図のように、その遺伝子には特有のスイッチがすでに入っている。

普通の受精卵とは異なるスイッチが入った状態から始まるため、その後の発生が正常に進まないのでは、と推定される。

体細胞クローン動物は、元の個体と遺伝子の配列は全く同じだが、そのほかの部分がどこまで元の個体と同じなのか、実ははっきりわかっていない。佐々木裕之・国立遺伝学研究所教授は「体細胞クローンの研究上、重要な研究だ」と話す。

<メモ> 皮膚、肝臓など特定の役割を果たすようになった体細胞は、受精卵のようにあらゆる種類の細胞になる能力はないと考えられていた。しかし97年に英国のグループが体細胞クローン羊ドリーの誕生を発表、常識がひっくり返った。

体細胞クローン動物は体細胞の核を、核を除いた卵子に移植し、子宮に戻してつくる。このとき体細胞の核に何が起こるのか詳しい仕組みは不明で、成功率も数%と低い。

 

《朝日新聞 2001年06月17日より引用》

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です