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口蹄疫に悩むEU 域内の食肉、禁輸拡大 英の対応は内輪から批判


2001年03月19日

【ロンドン18日=沢村亙】英国で家畜伝染病、口蹄疫(こうていえき)流行の勢いが増している。感染はフランスにも飛び火し、欧州連合(EU)からの家畜や食肉を締め出す動きが国際社会に広がる。英政府は殺処分する家畜数を大幅に増やすことを決め、多くの国々が伝染を水際でくい止めようと懸命だ。劇的に流行した背景に、安全を度外視してグローバル化した食肉流通システムを指摘する声も出ている。

 「人一倍衛生には神経を使ってきた。感染してないのになぜ殺さねばならないのか」。ロンドンの西百キロのウィルトシャー州で養豚農家ジョナサン・ホランドさん(二八)は肩を落とした。

農場の一画に長さ二百メートルの溝が掘られ、十五日から豚二千七百匹の焼却処分が始まった。隣の農場で口蹄疫に感染した恐れのある羊が見つかったためだ。

 

先月二十一日に初めて感染が確認されていらい、感染家畜が見つかった農場の牛、羊、豚の計二十一万匹が殺処分された。それでも歯止めはかからず英政府は十五日、予防措置として、感染農場の周辺での健康な家畜の殺処分を決めた。処分家畜は百万匹に達する見方もある。畜産業の損害は一週あたり六千万ポンド(約百十億円)にのぼる。

○空港で押収

口蹄疫は空気感染のほか、食品、靴やタイヤについた泥でも伝染するため、各国は水際での感染防止に厳戒態勢を敷き始めた。

英国の空港では、国際線旅客機への肉・乳製品の持ち込みが禁止された。弁当のサンドイッチやおみやげのチョコレートまで「押収」している。米国の空港では麻薬探知犬が、欧州から到着した乗客の荷物の中に食品や汚れた靴が入っていないか監視を始めた。

フランスでも感染が確認されたのを受けて、EU加盟国からの家畜や食肉の輸入禁止措置は北米のほか、東欧や北アフリカにも広がった。EUは「汚染地は英国と、フランスの一部だけなのに全面禁輸は過剰な対応だ」と反発。酪農・畜産が主産業のアイルランドとデンマークの痛手は特に深刻で、「英国の口蹄疫対策は近隣諸国への配慮に欠けている」(アイルランドのバーン天然資源担当副大臣)と対英批判も強まっている。

○流通に問題?

英国で一九六七年に口蹄疫が大流行した時は、感染地域は英国中部に限られた。それが今回はわずか半月間で英国全域に拡大した。家畜取引が全国規模に広がった影響が指摘されている。

今回の流行では、感染源とみられる英国北部の農場から、全国の食肉処理場や市場に運ばれた家畜や輸送車がウイルスを拡散させたことがわかっている。

九〇年代にEUの安全基準強化で処理場への獣医師配置が義務づけられ、英国ではコスト増に耐えられない地方の処理場の閉鎖が相次いだ。大手スーパーの価格競争が激しくなり、大都市近くに自社の処理場を設けて、全国から安い家畜を買い付けるようになった。

EUの市場統合やスーパーの国外進出で、こうした家畜取引はさらに国境を越えて拡大。狭い輸送車に家畜を詰め込んで長距離を運ぶことで、伝染病が劇的に流行する条件はますます整ったといえる。

このため英国の環境保護団体からは「一定の地域内で生産と消費がされていれば流行拡大は防げた。消費者は価格ばかりにとらわれず、地元産業の振興にも目を向けるべきだ」と自戒を促す意見が出ている。

<口蹄疫> 牛、豚、羊など家畜のウイルス性伝染病。高熱が出て口やひづめに水ほうができる。発育障害や乳量の減少を起こすため、家畜の生産性が低下する。効果的な治療法はない。感染力が強く、感染動物間のほか飼料や車、人に付いて伝染し、湿度が高いときは風に乗って広がることもある。人にはうつらない。

 

《朝日新聞 2001年03月19日より引用》

 

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