国内初のクローンヤギ、造血細胞異常が死因? 牛でも免疫系に病変
2000年12月22日
農水省畜産試験場(茨城県茎崎町)で先月末、生後十六日目で死んだ国内初の体細胞クローンヤギは、肝臓や肺、腎臓などに、本来ないはずの骨髄系の造血細胞が異常に増えていたことがわかった。すでに二百頭近く誕生している体細胞クローン牛でも、死産や誕生直後に死ぬ例が約四割を占め、免疫系や肝組織などの異常が多いことがわかってきた。体細胞クローン技術に無理はないのだろうか。
(本多昭彦)
「二週間も生きていたのが不思議なほどだった」
死んだクローンヤギの病理診断をした同省家畜衛生試験場(同県つくば市)の久保正法病理診断研究室長は、異常病変の多さに驚いたという。体細胞クローンに関する農水省のプロジェクト研究の一環として、死んだクローン牛の原因調査もしている。
このヤギは、生後六カ月の雄ヤギの脳の下垂体前葉細胞を、核を除いた未受精卵に移植して代理母のヤギに産ませた雄=写真、農水省畜産試験場提供。先月十二日の誕生後、同二十八日に急死するまで、外見上は問題なく順調に育っていた。しかし、ヤギの体内では異常が進行していた。
まず、肝臓と腎臓、肺、リンパ節、精巣の精管周囲に骨髄系の造血細胞が異常に増えていた。白血球が大量に作られ、白血病のような状態になって貧血を起こしていたほか、肝臓と腎臓で糖の代謝異常を示す細胞変性が認められた。肝臓にはさらに、肝硬変で起きる状態に似た結合組織の増加も目立った。
体細胞クローン牛は、農水省畜産局によると、一九九八年七月に国内で初めて誕生して以来、十月末時点で百九十二頭が生まれ、九十頭が育っている。
しかし、事故や計画的に殺処分した例、ウイルス病による異常産を除くと、全体の四四%にあたる八十五頭が死産または生後半年以内に死んでいた。このうち死産が二十七頭で、四十頭が生後十日以内に死ぬなど、生まれてすぐに死ぬ率が高かった。
久保さんらは、昨年二月から今年の九月十四日までに流・死産または死んだ体細胞クローン牛八十六頭の病理診断をしたところ、殺処分などを除く五十九頭中、五十四頭で何らかの病変が認められ、うち十七頭が流・死産だった。
病変別では、合併も含め、造血・免疫系の異常が十頭と最も多く、次いで胎盤の異常が九頭、甲状せんと肝臓の結合組織の異常がそれぞれ八頭、骨格筋の異常が五頭と続いた。
造血・免疫系の異常は、胸せんが小さく、中のリンパ球も少なくなっていたものが目立ったほか、ヤギと同じように肝臓の結合組織が増加する異常も認められた。また、さい帯^(さいたい)動脈が子牛の体内に入り込み、出血死したのも四例あった。
久保さんは「これらの異常がクローン特有かどうかははっきりしない」としながらも、現在の方法に「生物学的な無理があるのではないか」と指摘、遺伝子レベルでの影響を懸念する。
その解明のために期待されているのが、クローンマウス。東京農大の河野友宏教授は「牛でみられる異常は統一性がなく、解析が難しい」として、クローンマウスをモデルにした研究の必要性を強調している。
国立感染症研究所の小倉淳郎実験動物開発室長によると、クローンマウスでは牛でのような免疫系の異常は認められないが、生まれたマウスのへその穴が締まらないなどの異常が散見されるという。
クローンマウスを作れる施設は、国内では東京農大や国立感染研究所、近畿大とまだ限られているが、「今後増えれば、牛などではできない遺伝子レベルの研究が進むのではないか」と畜産試験場の塩谷康生繁殖部長は期待している。
《朝日新聞 2000年12月22日より引用》