狂牛病、EU内を自由移動 統合市場にもろさ、食肉相場急落
2000年12月02日
【ブリュッセル1日=冨永格】欧州連合(EU)で広がりを見せる狂牛病騒ぎは、モノと一緒に病気も自由に移動してしまう統合市場の危うさを見せつけた。欧州最大の畜産国フランスが震源地だけに、消費者への心理的な影響は大きい。国産牛から感染例が見つかっていないのはEUで五カ国だけになり、需要急減で食肉相場は二割近く下落した。各国や欧州委員会の安全対策は後手に回り、市場の信頼回復のためにさらに年五十億ユーロ(約五千億円)近い出費を強いられることになりそうだ。
欧州委がまとめた今年の感染確認数(表)は、一九九〇年代に猛威を振るった英国が依然けた違いに多い。それでもピークだった九二年の約三十分の一で、着実に減り続けている。これに対し、英以外のEUは確認数こそ少ないが、九〇年代半ばから急増中だ。
フランスでは今年、昨年の四倍の狂牛病が確認され、英国に次ぐ「感染国」となった。デンマーク、ドイツ、スペインでは国産初の感染例が相次いで見つかり、政府の安全宣言は吹き飛んだ。
九二年末の市場統合でEU域内の国境検疫は廃止され、食品の安全は出荷地での検査に頼ることになった。各国の取り組み姿勢が甘ければ、感染性の病気は一気に広がりかねない。仏で確認数が増えたのは検査の強化も一因だが、消費者の行政不信から、かえって「調べればまだ出る」という不安を招いてしまった。
欧州委員会がこのほど発表した緊急対策は、消費者の信頼回復が最大の目的だ。(1)感染源の疑いがある動物性飼料の使用、輸出を六カ月間禁止する(2)生後三十カ月以上の牛(年産約八百万頭)は、狂牛病検査をパスしなければ出荷させない(3)需要低迷で出荷できない牛はEUが買い入れ、処分する――が柱。四日の臨時農相理事会で承認し、来年から実施の予定だ。
EUでは年間三百万トンの動物性飼料が生産されており、廃棄費用を含めた損害は年約三十億ユーロ(約三千億円)。また、飼料中のたんぱく質は輸入中心の大豆などに頼ることになり、肥育コストの上昇は確実だ。検査にも年五億ユーロ前後かかる、とみられる。
欧州委は、EU内の牛肉消費が一割減ると、冷凍庫での貯蔵費用を減らすため年に約二百万頭(約六十万トン、八億ユーロ相当)が廃棄処分される、と試算する。畜産業者からの買い取り費用は、EU予算と各国が七対三で負担する。フィシュラー欧州委員(農業担当)は「統合市場のトラブルにはEUぐるみで取り組むしかない」と強調している。
○独も恐々
二十八日、ドイツのハノーバーで開かれた農業フェアで、牛にさわろうとするカールハインツ・フンケ農相=写真、AP。これまで狂牛病の被害を免れているとみられていたドイツで十一月二十四日、国内産の牛の感染が確認された。「動物性飼料は安全」と話していた農相は一転、連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)で動物性飼料の使用を全面禁止する法案の必要性を主張し、可決された。独政府は全国規模での感染検査も実施する。
<EUでの狂牛病確認数>
~1999年 2000年
英国 178129 1136
アイルランド 447 110
ポルトガル 367 112
フランス 80 121
ベルギー 10 9
ドイツ *6 ●2
オランダ 6 1
イタリア *2
デンマーク *1 ●1
スペイン ●1
ルクセンブルク 1
計 179049 1493
(11月末現在、単位頭、欧州委員会調べ、*は輸入牛、●は国産初の確認)
《朝日新聞 2000年12月02日より引用》