国内初のクローン豚 世界2例目、名は「ゼナ」 農水省畜産試験場
2000年08月17日
豚の胎児の体細胞を使って、この細胞と遺伝的に同じ体細胞クローン豚を出産させることに国内で初めて成功した、と農水省畜産試験場(茨城県茎崎町)が十六日、発表した。世界では今年三月に英国のバイオ企業が報告したのに次ぐ二例目。試験場は、遺伝子を操作し、人間に移植できる豚の臓器づくりの研究などへの応用を期待している。十八日発行の米科学誌サイエンスに掲載される。
クローン豚をつくったのは、試験場育種部の大西彰主任研究官や米ロックフェラー大などのチーム。中国産の黒豚の胎児(メス)の線維芽細胞から遺伝情報がつまった核を採取、あらかじめ核を除いた白豚の卵子に注入し、電気処理する方法で百十個の胚(はい)を作製。代理母の白豚四匹に戻した。一匹が妊娠し、七月二日にメスの子豚一匹が生まれた。
子豚は黒豚で、核を提供した胎児の細胞と遺伝子も一致していた。現在、順調に発育しているという。
体細胞クローンづくりは羊や牛、ヤギ、マウスで成功している。豚は臓器のサイズが人間に近く、この技術を応用して人間に臓器が移植できるよう遺伝子操作をした豚の生産が期待されている。ところが、豚は卵子の体外培養が難しいことなどから難航していた。
大西さんらは、クローン豚が人間への異種移植(ゼノトランスプラント)の研究につながる期待を込め、「ゼナ」と名付けた。
一方、豚のすい臓の細胞を免疫のないマウスに移植したところ、豚に潜伏しているある種のウイルスが種を超えて感染することを示した研究を、米国の研究者らが英科学誌ネイチャーに発表する予定。
こうしたことから、米国のバイオ企業が、遺伝子操作したクローン豚づくりの研究の中止を決めたと報じられている。
大西さんは「実際に移植に使うにはこうした問題はクリアすべきだが、(移植に向けた)研究そのものは続けていくべきだと思う」と話している。
【写真説明】
国内で初めて誕生したクローン豚「ゼナ」=茨城県茎崎町の農水省畜産試験場で
《朝日新聞 2000年08月17日より引用》