雪印、全牛乳工場を停止 約1週間を想定 会社側発表
2000年07月12日
大阪工場で製造した低脂肪乳が原因の集団食中毒事件を起こした雪印乳業(本社・東京)は十一日夜、緊急記者会見し、営業禁止処分を受けている大阪工場に加え、新たに全国の計二十の牛乳製造工場を操業停止にすると発表した。停止期間は十二日から一週間以内と見込み、この間に専門家らを加え、安全性を点検する。発症者が一万人を超えた食中毒事件は、その後、出荷されなかったり返品されたりした乳製品を加工乳などの原材料として再利用していた問題も表面化、雪印ブランドの信用問題に発展している。全国のスーパーなどで雪印製品の撤去の動きが広がり、酪農家への影響も懸念されており、今回の措置は、安全性を確認したうえで消費者の不安を取り除きたいとの考えとみられる。(13・38・39面に関係記事)
十一日午後十一時すぎ、東京本社と西日本支社で、笹島昭彦副社長ら幹部が緊急記者会見を開いた。この中で笹島副社長は、製造工程での安全性を再点検するため、十二日からをめどに、全国二十カ所の牛乳製造工場の操業を一時停止すると発表した。点検態勢が整った工場から順次、操業を停止していくという。
操業の停止期間中、同社は専門家による第三者機関の立ち会いのもと、全製品の製造ラインの工程、製造方法などについて安全性を厳しく点検する。これにかかる期間について、笹島副社長は「一週間はかからないと思う」と話し、各工場の安全が確認され次第、操業を再開する方針を示した。
操業停止の開始時期のめどを十二日からとしたことについて同社は、「学校給食や取引企業が存続できるよう、(他社からの)代替品の手当てがつく段階と判断した」と話した。
また、返品されるなどした乳製品を加工乳などの原材料として再利用していた問題については、笹島副社長は「そのような情報を得ているが、現段階では、どこでどのように行われていたのかは、調査中で把握できていない」と述べるにとどまった。
小売店などの取引先の補償問題については、「誠意を持って対応するが、補償額がいくらになるか、ここでは言えない。影響を受ける取引企業数も把握できていない」と説明した。
雪印は現在、マーガリンやチーズなどの乳製品を含め、全国に計三十四の製造工場を操業している。このうち、操業停止とするのは、大阪工場を含め、牛乳やヨーグルトなどを製造している全国二十一の工場。
同社によると、二十一の工場での生産量は昨年度実績で一日平均約三千六百キロリットルで、売上高は同七億五千万円に上るという。大阪工場による集団食中毒の影響で、現在の工場の操業率は一五%ほどに落ち込んだという。
畜産団体関係者によると、牛乳生産全体に占める雪印のシェアは約五分の一になる。スーパーなどで、雪印製品の撤去が進み、全体の消費量が落ちると、酪農家への影響も大きくなる恐れがある。
一時停止を決めたことについて、笹島副社長は「操業停止は、苦渋の選択です。一連の事件を厳粛に受け止め、消費者の不安を取り除き、安全性の確認を徹底したい。製品で失った信頼は、商品で取り戻すしかない」と話した。
○需要ピーク期に流通断たれて苦境 減収直結、赤字転落も
ずさんな生産体制によって食中毒事件を引き起こした雪印乳業(本社・東京)は十一日、飲用牛乳・乳飲料を生産している二十一工場の操業の一時停止という、創業以来最大の苦境に立たされることになった。大手スーパーなど主要な流通経路が、全製品の販売を相次いでとりやめるという「出口」封鎖も広がったため、やむなく幅広い操業停止に踏み切った形だ。同社は生産体制の総点検を急ぐが、ブランドイメージの回復は容易でなく、厳しい局面を迎えた。
今回の停止期間は、一週間程度とされるが、乳業界の需要のピークに入るため、この分の売り上げ減だけでも経営に直結する。このほか、一連の問題発覚後撤去された商品を、再度流通現場で陳列してもらうための販売促進費や、中毒被害者への補償費も加えると、二〇〇一年三月期決算(単体)で見込んでいる百二十五億円の経常利益の確保は不可能に近く、創業以来初の経常赤字に転落する可能性も強まっている。
また、ブランドイメージの悪化の広がりは、大手流通業者の雪印製品不信に直結している。雪印専売店にも、操業停止期間に他の大手メーカー商品の納入あっせんなどをするため、生産体制が回復しても、営業面での原状回復にはさまざまな障害も予想される。
牛乳・乳飲料は利益率が低いが、雪印ブランド全体への波及によって、比較的利益率の高いバターやチーズなどの売り上げ減も必至とみられる。
ただ、同社はバブル経済期に過度な投資に走らなかったために、財務基盤は比較的健全だとされる。このため主取引銀行で筆頭株主の農林中央金庫は「手元資金にも余裕があり、厳しさが増したとしても、資金繰りを含め全力で支える方針」(首脳)としており、現時点では、経営への打撃も回復可能な範囲との見方だ。だが、他の融資行からは「財務体質はいいが、これ以上不買運動に似た状況が続くと、信用失墜もあり心配している」(大手都市銀行幹部)という。
【写真説明】
会見を終え、頭を下げる雪印乳業の笹島昭彦副社長=11日午後11時40分、東京都新宿区の東京本社で
《朝日新聞 2000年07月12日より引用》