クローン(ののちゃんの自由研究 朝日NIEサマースクール)
1999年08月05日
最終回
藤原(ふじわら)先生 「ドリー」という名前を聞いたことがある?
ののちゃん イギリスで生まれた有名(ゆうめい)なメスの羊(ひつじ)でしょ。
藤原先生 ドリーは「クローン羊」と呼ばれてるの。
ののちゃん 何だかむずかしそう。
藤原先生 ドリーはお父さんがいないのに生まれました。科学(かがく)の発達(はったつ)で、このような動物をつくることができるようになったのよ。
ののちゃん どうしてそんなものをつくるの?
藤原先生 人間にとって都合(つごう)がいい動物がほしいからなの。日本でも同じ「クローン技術(ぎじゅつ)」を使って、牛が生まれているのよ。
ののちゃん 私の代わりに宿題をやってくれる人はつくれないかな。
藤原先生 だめだめ。世界の国ぐには、クローン人間を禁止(きんし)しようと話し合ってるの。自由研究の最後に、クローン動物について勉強しましょう。
(タイトル文字と絵・いしいひさいち)
<調べてみよう>
(1)あなたのお父さん、お母さんと似ているところをさがしてみよう
(2)DNAについてもっと調べてみよう
(3)人のクローンをつくってもいいか、いろんな人の意見(いけん)を聞いて、考えてみよう
○羊のドリー、かあさんだあれ
ドリーは一九九六年七月、イギリスの「ロスリン研究所」(けんきゅうじょ)で生まれました。
羊や牛、人間といった動物の体は何十兆(ちょう)個もの細胞(さいぼう)からできています。目にはみえません。一つ一つの中には「DNA(ディーエヌエー)」という物質(ぶっしつ)が入っています。これが、体の設計図(せっけいず)です。
子どもが生まれるときは、父親の精子(せいし)という細胞と母親の卵子(らんし)という細胞が母親の体の中で一緒になって、受精卵(じゅせいらん)と呼ばれる一個の細胞ができます。これが分裂(ぶんれつ)を繰り返して、細胞が増え、赤ちゃんの体ができ、生まれてきます。
ところが、ドリーは違います。
研究所のイアン・ウィルムット博士(はかせ)たちは、六歳のメスの羊の乳房(ちぶさ)にある細胞(さいぼう)を取り出しました。次に、別のメスの羊の卵子からDNAが入っている核(かく)という部分を抜き取りました。そして、この卵子に乳房の細胞を入れました。卵子には、乳房の細胞にあるDNAが移(うつ)ったことになります。
この卵子を分裂させて、また別のメスの羊のおなかにある子宮(しきゅう)という場所に移し、育(そだ)てました。このようにして生まれてきたのがドリーです。 ふつうに生まれた子どもの羊のDNAには、父親と母親のDNAがまざっていますが、両親のDNAとは違います。つまり、体の設計図は似ていますが、同じではないということです。だから、親と顔や体つきが似ていても、見分けがつかないほどそっくり、ということはないのです。
ところが、ドリーの細胞の核の中にあるDNAは、乳房の細胞を取り出した羊のDNAと同じです。このため、ドリーはこのメス羊をコピーしたように、顔も形もそっくりのクローンです。
ドリーを出産した羊は「生みの親」ですが、DNAは違います。では、乳房の細胞を取り出したメス羊が本当のお母さんでしょうか。そう思(おも)えるかもしれませんが、DNAが同じなので「ふたごのきょうだい」と言った方が正確(せいかく)です。
○日本でも牛の「のと」「かが」
日本でも、ドリーを誕生させた技術を使って、昨年(さくねん)7月、石川県の県畜産総合(ちくさんそうごう)センターでふたごの牛が生まれました((下)の写真)。2頭は「のと」「かが」と名前がつけられました。国のまとめでは、今年の7月までに、同じような方法で、81頭のクローン牛が日本で生まれています。 (右)の写真は、核を抜いた牛の卵子に乳房の細胞を入れる核移植(かくいしょく)。丸い部分が卵子(らんし)で、中に白い細胞が見えます。(岩崎説雄<いわさきせつお>・東京農大教授提供)
○人間に使っていいの?
クローンの技術は、人間にも使うことができると考えられています。子どもができない夫婦(ふうふ)のために、クローン人間をつくってあげたいという人もいます。 でも、クローン技術を人間に使っても安全(あんぜん)かどうかは、まだわかっていません。都合のよい子どもを望(のぞ)むため、生まれてくる男の子の数が女の子の数よりずっと多くなったり、その逆(ぎゃく)になったりするかもしれません。それに、昔(むかし)から人間の子どもはお父さんとお母さんが愛(あい)しあって、生まれてくるものでした。
こうしたことから、世界の国ぐには、クローン人間づくりを禁止しようとしています。もう、法律(ほうりつ)で禁じている国もあります。でも、勝手につくってしまおうとする人がいるかもしれません。
どうしたらいいか、私たちが真剣(しんけん)に考えなければならないことです。
○「おいしい肉」増えるのかな
ドリーや「のと」「かが」は、もとの動物とDNAが同じなので、体の性質(せいしつ)も同じです。この特徴を(とくちょう )利用して、おいしい肉がとれたり、乳をたくさん出したりする動物をもとにし、同じような動物をつくることができます。人間の病気にきく薬(くすり)の原料(げんりょう)を体の中にもつ動物を増やすこともできそうです。また、トキのように数が少ない動物の細胞を取りだしてクローンを作ることができれば、絶滅(ぜつめつ)を防げると考えられています。
ただ、なぜか、クローン牛の赤ちゃんが生まれてきたときにはもう死んでいたり、生まれてすぐ死んだりすることが多いなどの問題が起きています。
◆50人に図書券5000円分!8日連続パズルだよ
◇最後の問題
ドリーを誕生(たんじょう)させた技術(ぎじゅつ)を使って、昨年、石川県で生まれ、「のと」「かが」の名前がつけられたクローン動物は?
7月29日(木)から8月5日(木)まで毎日このページにパズルが載(の)りました。大きな四角に入る文字を順番(じゅんばん)に8個並べると、ひとつの言葉になります。その言葉が答えです。
◇応募方法
官製(かんせい)はがきに、パズルの答え、住所、名前、学年を書き、〒104・8786 東京都京橋郵便局留 朝日新聞NIEパズル係へ。12日消印有効(けしいんゆうこう)。
正解者(せいかいしゃ)の中から、図書券(としょけん)5000円分を50人、朝日新聞特製(とくせい)ブースカ貯金箱(ちょきんばこ)を100人、特製ボールペンを500人に差し上げます。正解は17日の朝刊社会面に載ります。当選発表は、賞品(しょうひん)の発送をもって代えさせていただきます。
<NIE>
英語(えいご)の「ニュースぺーパー・イン・エデュケーション」の略(りゃく)で、「教育(きょういく)に新聞(しんぶん)を」と訳(やく)しています。授業(じゅぎょう)で新聞を「生きた教材(きょうざい)」として使う運動(うんどう)です。
【写真説明】
ドリー(右)=AP(1997年12月撮影)
《朝日新聞 1999年08月05日より引用》