バンコマイシン耐性腸球菌防止、鶏肉がカギ 水際の検査態勢を強化
1999年04月12日
ほとんどの抗生物質が効かないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が、輸入鶏肉から国内患者に感染していることが今月、明らかになった。欧米では、院内感染の原因菌として猛威をふるっているが、日本での患者はまだ八人と少ない。今こそ拡大防止の好機だとして、厚生省を中心に、水際での輸入鶏肉調査の強化や院内感染への対策が始まった。
院内感染の原因菌としてはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が有名だが、これには抗生物質のバンコマイシンが効く。VREは発病すると治療のすべがない。
米国ではかつてMRSAなどの感染対策にバンコマイシンを大量に使い、欧州や東南アジアでは鶏にバンコマイシン類似の抗生物質アボパルシンを与えた。こうした乱用によって、VREが誕生したと考えられている。
●感染経路は?
汚染された肉を食べればすぐにおう吐や発熱を起こすわけではない。加熱調理すれば菌は死ぬ。しかし、食肉に触った手や台所用品から体に入り込み、さまざまなルートで環境に広がる(図)。
菌が体内に入って保菌者になっても、健康であれば発病しないが、高齢や病気で体の抵抗力が落ちている人の場合は発熱や炎症を起こしやすく医療施設内での院内感染が最大の問題になる。
日本では、VREによる死者はまだいないが、欧米では、白血病の患者や血液透析を受けている人たちが病院内で感染・発病し、死亡する例が多発している。
●国内の状況は?
日本での患者は一九九六年に京都府で初めて報告されたが、今のところ八人にとどまっている。院内感染の報告もない。アボパルシンを早めに禁止したこと、バンコマイシンの使用量が米国の約四分の一と少ないことが背景にある。
専門家は「いま有効な手を打てば欧米のような事態は避けられる」とみる。
一方、日本食肉年鑑によると、国内の鶏肉生産約百二十万トンに対し、毎年五十万トン以上の鶏肉が輸入されている。拡大防止には、輸入鶏肉の対策が重要だ。
厚生省は、水際での調査と院内感染防止に向けて(1)横浜、神戸両検疫所での鶏肉調査を強化する(2)自治体や病院に対し衛生対策の徹底を通知(3)日本感染症学会と日本化学療法学会に依頼し、抗生物質の使い方のガイドラインを来春までに作る――などの対策を取ることにしている。
●欧米の状況は?
欧米では、すでに環境中に広がっており、MRSA以上の問題となっている。米疾病対策センター(CDC)の調査では、米国の院内感染にVREが占める割合は、八九年の〇・三%から九七年の一〇・五%に増加した。
CDCは九五年に手洗いの徹底や院内検査体制の確立、スタッフの教育などを中心にしたガイドラインを出し封じ込めに懸命だ。
人間と同様に注意が必要なのは家畜だ。病気を防ぐ目的で抗生物質を使うと、家畜の体内で薬が効かない菌が増えることになる。サルモネラや緑のう菌など、もともとVREより強い病原性をもつ細菌が、現実に薬剤耐性を獲得しつつある。
●家畜対策は?
強い危機感を抱いている米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)は、人間用の抗生物質に似た薬を家畜に与えないよう呼びかけている。しかし、各国の足並みはそろっていないのが現状だ。
来年二月には、アボパルシンを世界中で禁止することなどを目指し、各国の腸球菌研究者がカナダに集まって協議する。
【写真説明】 VREの電子顕微鏡写真=池康嘉・群馬大医学部教授提供
《朝日新聞 1999年04月12日より引用》