ネズミの精巣で人間の精子作る 臨床応用には慎重 鳥取大グループ
1999年02月02日
精液の中に精子がない「無精子症」の男性の精巣(睾丸<こうがん>)から、精子をつくるもとになる細胞を取り出し、ネズミとハツカネズミの精巣に移植して人間の精子を作り出す基礎実験に鳥取大学医学部泌尿器科のギリシャ人医師、ニコラオス・ソフィキティス講師らのグループが成功、一日、記者会見で発表した。種の違う動物に人間の精子をつくらせる実験に成功したのは世界で初めてという。同グループはできた精子が正常かどうかの確認を進めているが、動物細胞を使うことの倫理的な問題もあり、臨床応用には慎重な姿勢をみせている。
ソフィキティス講師らは一九九七年から九八年にかけて、同大で診療を受けた無精子症の男性十八人に、口頭や書面による承諾を取って精巣の細胞を取り出し、精子をつくり出すもとになる「精祖細胞」だけを抽出して凍結保存した後、十匹のネズミと八匹のハツカネズミの精巣に移植した。
四-五カ月後に精巣を取り出して顕微鏡で調べると、ネズミ三匹、ハツカネズミ二匹の計五匹で、人間の精子が見つかった。免疫力の小さい動物を使い、さらに免疫を抑える特殊な工夫をして、人間の細胞への免疫反応を抑えたことが成功につながったという。
同泌尿器科の宮川征男教授によると、人間の精子を実験材料に使うのは一般的に行われており、学内の倫理委員会への申請は不要と判断したという。
○慎重の上にも慎重を
星野一正・京都女子大学教授(生命倫理)の話 今すぐ臨床応用するつもりはないというが、人間の精子や卵子を使うことには、基礎実験であったとしても、慎重の上にも慎重を期すべきだ。学内の倫理委員会に国内外の研究によるデータを提出して徹底的に議論をすべきだったのではないか。
《朝日新聞 1999年02月02日より引用》