「国立大8獣医学科、統合を」東北大・九大に新設 教官ら国に要請へ
1998年10月14日
日本の獣医学の教育水準が国際的に遅れているとして、全国十六の獣医科系の教官でつくる全国獣医学関係大学代表者協議会(会長、唐木英明・東大農学部教授)や日本学術会議の獣医学研究連絡委員会、日本獣医師会などは十三日までに、獣医学科のある国立大学のうち、東大、北大を除く八大学で同学科を廃止し、東北大、九大に統合するよう、文部省や地元に働きかけることで合意した。二〇〇一年度の実現を目指す。エボラ出血熱など人獣共通感染症の流入を防ぎ、食品の安全をはかるため、獣医師の役割が専門化、高度化する中で、教育現場の規模拡大なしには国際的に取り残されかねないと判断した。
合意事項によると、帯広畜産大、岩手大、東京農工大、岐阜大の各獣医学科を廃止し、東北大に獣医学部を新たに設けてここに統合。また、鳥取大、山口大、宮崎大、鹿児島大の同学科も廃止し、九大に新たに設ける獣医学部に統合することを目指す。
現在、八つの国立大学の獣医学科は三十―四十人の入学定員に対し、教官数は二十四―三十一人と欧米の基準の三分の一以下にとどまっている。実習など臨床教育が手薄になり、国内外の獣医学関係者の間に「検疫業務を行う獣医師の能力が国際的に評価されなくなり、動物や畜産品などの輸出入に支障が出かねない」などの危機感がある。財団法人・大学基準協会も昨年、獣医学科について、学生入学定員六十人までは教官七十二人以上が必要、と文部省に提言している。
再編が実現すれば、新たに教官を増やすことなく、東北大は学生八十人、教官百六人、九大では学生百二十五人、教官百四人の規模にすることができ、欧米の教育基準をぎりぎり満たすことが可能になるという。関係者は合意を受けて、今後、文部省や各大学本部などに理解と協力を求める。
一方で、組織再編が実現すれば、獣医学を学べる国立大は東大、北大を含め、四校だけになる。獣医学科はこのほか、一公立大、五私立大にあるが、国立の獣医学科への進学希望者は、この十年間で約三倍にも増えており、獣医学科がなくなることに対する地元からの反発も予想される。
○文部省専門教育課の話 大学本部や地元の了解が得られるなど具体的な進展がみられれば、文部省として概算要求などで適切に対応していく。小規模なままで獣医学科を学部に昇格させることは難しく、基本的には獣医学の充実には、組織の再編整備が望ましいと考えている。
《朝日新聞社asahi.com 1998年10月14日より抜粋》