人のクローン研究禁止 「入り口」段階から 学術審指針
1998年07月28日
文部省の学術審議会は二十八日、元の動物と遺伝的にまったく同じ個体を誕生させるクローン技術の人への応用研究を禁止する指針を決定した。一九九六年に英国で体細胞を使用したクローン羊「ドリー」が生まれて以来、日本でも今月同じ技術を利用してクローン牛が誕生するなど研究が急速に進む中で、「クローン人間」を食い止めるため、指針はその手始めになる研究も禁じている。日本ではこれまで、人のクローン研究に対し、政府資金を配分しない措置がとられてきたが、規制のための法律や指針はなかった。
この日開かれた学術審総会で、同審議会バイオサイエンス部会(部会長・井村裕夫京大名誉教授)がまとめた「大学等におけるヒトのクローン個体の作製に関する研究の規制に関する指針案」が了承された。文部省は八月中に指針を官報で告示し、大学や文部省関係の研究機関に適用する。 指針は、クローン人間づくりの研究そのものに加え、その前段階といえる、人の体細胞の核を、核を除いた卵細胞に移植す
る研究も禁止した。また、指針に触れる恐れのある研究は、大学などに設ける審査委員会と学術審議会のバイオサイエンス部会に設ける専門委員会で審査を受けなければならないとした。
一方、人以外の動物のクローン研究は、畜産や医学に有用で推進すべきだという立場から、指針は規制を設けていない。
人のクローン研究について海外では英国やドイツ、フランスでこれを禁じる法律があり、米国では大統領令で国の資金助成を禁止した。日本では昨年三月、学術審や首相の諮問機関である科学技術会議が研究助成金を出さないことを決めたが、その他の措置はとられていなかった。
しかし、大学を中心に今後、クローン研究の分野が拡大していくことが予想されることから、学術審のバイオサイエンス部会の委員は規制の基準を早急に示す必要があるとの見解で一致。昨年来、法律より柔軟できめ細かな対応ができるとして指針作りを進めてきた。学術審は指針を三年ごと、または必要に応じて見直すとしている。
一方、科学技術会議のクローン小委員会は今年六月にまとめた中間報告で、今回指針の対象にならない企業や病院なども含め、人の体細胞の核を卵細胞に移植して細胞分裂させた胚(はい)を母体に移すことを禁じる方針を打ち出し、規制の手段を法律にするか指針にするか、検討している。
《朝日新聞社asahi.com 1998年07月28日より抜粋》