体細胞クローン牛誕生 成牛から世界初 石川県・近畿大共同研究
1998年07月06日
石川県畜産総合センター(石川県押水町)は五日、近畿大学農学部畜産学研究室(角田幸雄教授)との共同研究で、成長した牛の細胞から、元の牛と遺伝的にまったく同じ「クローン牛」を作ることに、世界で初めて成功、同センターで雌の双子が誕生したと発表した。成長したほ乳類の細胞からのクローンは、一九九六年七月に誕生し、翌年二月に公表された英国のクローン羊ドリーに続いて世界で二例目。この技術が実用化されれば、優れた形質を持つ家畜の「コピー」を大量に生み出すことが可能になる。人間への応用も可能で、今後、研究のあり方を巡る議論も活発化しそうだ。
今回生まれた牛のもとになった細胞は、成長した雌牛の卵管から採取したもの。ドリーを誕生させた英国ロスリン研究所と同じく、細胞を栄養の少ない状態の中に置いて培養し、受精卵のように体のどの部分の組織にも分化できる能力を持たせた。
この細胞の核を、核を取り除いた別の牛の卵子に移植し、昨年十一月、同センターで五頭の牛の子宮に二個ずつ入れたところ、すべての牛で妊娠に成功した。出産予定日は八月中旬だったが、双子を妊娠していた牛が五日午前六時半ごろ、二頭を相次いで出産した。子牛の体重はそれぞれ約一八キロと約一七キロで、通常の二五キロに比べて小さいが、元気という。
成長した動物の体細胞を使ったクローンは、妊娠後も流産する確率が高く、出産までこぎつけるのは難しいとされていた。
クローン技術を応用すれば、優秀な家畜を大量に作ることができるだけでなく、遺伝子組み換えで人間の遺伝子を導入し、薬などを動物の体で作らせる「動物工場」も可能になる。
成長した牛の細胞からのクローンは今回が世界で初めてだが、日本では角田教授らのグループのほかに、農林水産省畜産試験場と鹿児島県肉用牛改良研究所のグループ、大分県畜産試験場などが計十頭以上の妊娠に成功し、今後八月にかけて、次々と出産の予定だ。
今回、卵管を提供した雌牛はすでに死亡しているが、組織の一部は保存されている。近畿大と同センターは、生まれた二頭の子牛が元になった牛と遺伝的に全く同じクローンかどうかをDNA鑑定で確かめる。
○基礎技術の高さ証明
家畜繁殖技術に詳しい入谷明・京都大名誉教授の話 すばらしい業績だ。日本では一頭の牛の商品価値を高めることに力を入れ、大学や各地の畜産試験場などが、体外受精や核移植などの技術を向上させ、家畜生産で実用化してきた。そうした基礎技術の高さが、今回の成功につながったのではないか。
【写真説明】
双子のクローン牛=5日午後、石川県の県畜産総合センターで
《朝日新聞社asahi.com 1998年07月06日より抜粋》