院内感染の原因菌「VRE」、輸入鶏肉から検出 厚生省調査
1998年07月02日
病気や高齢などで抵抗力が落ちた人が「日和見感染」を起こす院内感染原因菌のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が、輸入鶏肉から検出されていることが一日、厚生省の初の調査で分かった。バンコマイシンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など他の院内感染原因菌に効果があり「最後の抗生物質」と呼ばれているが、VREには効果がない。
VREは、欧米、アジアなど六カ国から輸入された百二十検体のうち、フランスなど三カ国からの二十検体中、六検体でみつかった。同時に検査した国産の鶏肉百二十八検体からは検出されなかった。これまで国産では奈良県の調査で見つかっただけで、汚染は広がっていない。
日本食肉年鑑によると、一九九五年度には国内の鶏肉生産約百二十七万トンに対し、輸入は約五十三万トンだった。
VREに汚染された鶏肉を食べても健康な人が発病することはない。しかし、抵抗力の落ちている重病患者や高齢者は尿路感染などを起こし、敗血症になって死亡することもある。また、腸内にVREがすみついた健康な人が媒介者となって、重病患者らが感染することがある。
腸内菌であるため患者の便を介して汚染が簡単に広がり、米疾病対策センターによると、米国では八九年には〇・三%だったVREによる院内感染の発生率が、九三年には七・九%に増加している。
腸球菌はもともと抗生物質が効きにくく、確実に効くのはバンコマイシンだけだが、VREはこれにも耐性を持っている。実験では遺伝子情報が、VREからMRSAに移動し、MRSAが耐性を獲得することも確認されている。
VREは八八年にフランスで見つかった。鶏の病気を予防するため、えさにバンコマイシンとよく似た構造のアボパルシンという添加物を混ぜたのが原因で出現した。日本では、アボパルシンは九七年から使われていないが、タイなど一部の国ではまだ使われている。
今回の調査に当たった群馬大医学部の池康嘉教授(微生物学)は「食糧が全世界的に流通する時代なので、アボパルシンを世界中で使用禁止にするなどの措置が必要だ。国内に汚染された鶏肉を入れないために、水際での調査を続けるべきだ」と話している。
<日和見感染> 自然界に広く存在する黄色ブドウ球菌や大腸菌、緑のう菌などで、病気などのため抵抗力が落ちた人に発熱、肺炎など様々な症状が起きること。健康な人は問題ないことから、この名がある。
《朝日新聞社asahi.com 1998年07月02日より抜粋》