19980526

サルモネラ食中毒が急増 耐性菌、数多く検出 賞味期限表示義務化へ


1998年05月26日

サルモネラ菌による食中毒が急増している。3月半ばには東京、神奈川、岩手で計約1100人の児童、生徒が発熱、下痢を訴えるなど、昨年を大きく上回るペースだ。鶏卵を主な汚染源とするエンテリティディスという菌(SE)が目立ち、複数の抗生物質が効かない耐性菌も数多く見つかっている。食中毒シーズンを前に、農水省は4月、数種のサルモネラ菌を家畜の届け出伝染病に指定し、厚生省も鶏卵の賞味期限の表示を義務付ける方針を決めた。これを先取りする形で、全国農業協同組合連合会(全農)などは7月から試験的に鶏卵に賞味期限を表示する。

 サルモネラ菌は約二千三百種あり、主に食肉、鶏卵などで感染する。一九九二年以降、腸炎ビブリオに代わって食中毒の原因の一位になった。

九七年の患者数は約一万一千人。件数は四百九十九件で五年前の三倍に増えた。散発例も含めると、患者数は年間十万人以上に達すると推定される。

今年も三月末の厚生省の集計ですでに十七件、六百七十人の患者が出ている。九五―九七年の同時期の平均と比べ、患者数、件数とも約二倍となっている。三月半ばの約一千百人はこの数字には含まれていない。

発生が大型化、広域化しているのも特徴だ。三重県桑名保健所(長坂裕二所長)が九六年度に過去十年間の全国でのSE発生状況を調べたところ、四件に一件は患者数が百人を超え、潜伏期間も平均二十九時間半と長いうえ、汚染源の特定が難しくなる傾向があることがわかった。

また、北里大学獣医畜産学部(青森)の調査では、鶏卵などから出たサルモネラ菌の六―八割が、何らかの抗生物質が効かない耐性菌だった。愛知県衛生研究所は、人間から検出されたSEの七割が耐性菌であることを確認している。

このため、厚生省は食品衛生法の省令を改正して、鶏卵の賞味期限表示の義務付けや、調理パン、菓子などの加工業者に一分間、七〇度以上の加熱を求めることを決めた。この夏にも食品衛生調査会の承認を得て、実施する意向だ。

また、一年間に百数十万羽以上輸入されるヒヨコからもSEが検出されているため、農水省は一月に鶏用のワクチンの輸入を承認し、四月からSEなどを家畜伝染病予防法に基づいて届け出伝染病に指定した。

全農や日本養鶏協会など鶏卵関連の十団体は、いま産卵日、包装日などが混在している鮮度表示を、七月から試験的に賞味期限に一本化する。

<サルモネラ・エンテリティディス菌> 一九八〇年代に欧米で流行し、世界保健機関(WHO)は再興感染症として警告した。国内でも八九年以降、サルモネラ菌の中で最も多く検出される。乾燥や熱にも比較的強いとの報告もある。

○冷凍保存や加熱調理で菌増やさぬ工夫を

家庭でサルモネラ菌などによる食中毒を防ぐには、保存、調理の段階で菌を増やさないことだ。

厚生省は、このほど作成した家庭用の手引書などで、肉などは容器やポリ袋などに入れて冷蔵庫の他の食品と接触しないように保存すること、冷蔵庫は一〇度以下、冷凍庫はマイナス一五度以下で維持するよう呼びかけている。

卵もパックのまま冷蔵庫で保存する。卵、肉は七〇度以上で一分以上、中心部までよく加熱することが大切だ。生食の場合、賞味期限に注意して新鮮なうちに食べる必要がある。  段ボール箱に入った業務用の卵を常温で保管している飲食店も少なくないが、わずかでも菌が混入していると、爆発的に増えるため、冷蔵庫での保存と、十分な加熱が欠かせない。

 

《朝日新聞社asahi.com 1998年05月26日より抜粋》

 

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