19980402

乳脂肪からダイオキシン 国内に安全基準なし、対策急いで 【大阪】


1998年04月02日

家庭でよく口にする牛乳や乳製品の原料となる生乳・乳脂肪も、ごみ焼却場に近いほどダイオキシンに汚染されていることを示す帯広畜産大教授の調査結果は、酪農業界や消費者らに改めて波紋を広げた。欧米では乳脂肪について、ダイオキシン濃度の安全基準を設けた国が目立つが、日本にはまだ規制がない。厚生省は「直ちに問題になる数値ではない」とするが、市民からは「ごみ減量化など抜本的なダイオキシン対策を急いでほしい」との声が上がる。

●市民団体

「ネットワーク『地球村』」(事務局・大阪市中央区)代表の高木善之さんは「ドイツ、オランダには乳脂肪についてダイオキシンの安全基準があるが、生殖機能に対しては一ピコグラムという超微量で悪影響を与えるともいわれ、まだ不十分ではないか」と話す。

ダイオキシンは、塩素系プラスチックなどを燃やす過程で発生するといわれる。高木さんは「プラスチックの使用を避け、分別して捨てるよう消費者も気をつけなければならない。自治体もプラスチックを生ゴミといっしょにせず、高温で完全燃焼させるといった焼却炉の管理を徹底してほしい」と注文を付ける。

●関係団体

「生乳は経済連など都道府県の指定生乳生産者団体から買っており、信頼している」

ある大手牛乳メーカーの担当者はこう話し、今回の調査については「調査方法など詳しいことがわからず、何とも言えない」と述べた。このメーカーの場合、ダイオキシン濃度の日常的な検査はしておらず、「行政が調査方法や基準を発表すれば、それに従って実施したい」と、国の対策を待つ姿勢だ。

酪農業者の全国組織・中央酪農会議によると、日本の牛乳は一般的に、各地の農協が酪農家から集めてブレンドし、メーカーの工場に運ぶ。担当者は「ゴミ焼却炉は山間部やへき地に多い。いい環境のなかで酪農をしているつもりでも、影響を受ける場合もあるんですね」と複雑な反応だ。

●専門家は

海外では、牛乳や乳製品のダイオキシン濃度について、具体的な規制値を設けているケースが目立つ。

母乳のダイオキシン濃度の調査をしたこともある森田昌敏・国立環境研究所統括研究官は今回の調査結果について、「確定的なことは言えないが、焼却炉周辺で高い傾向が出ており、焼却施設の影響を受けている印象だ」として注目している。

○全国調査の必要性示す<解説>

一連のダイオキシンの研究で、ごみ焼却場周辺の牧場の乳牛から採れた牛乳の生データが日本で初めて得られた。最も高い濃度だった牛乳について、厚生省は「安全指針を十分に下回っている」とするが、調査をした中野益男・帯広畜産大教授は「牛乳をたくさん飲む乳児の場合、体重比で見ると、体内に取り込まれるダイオキシン濃度は、大人よりはるかに高くなる」と反論。さらに、「今回は比較的環境の良い地域だった。都市化の進んでいる地区では、もっと高い数値が出るのではないか」と指摘する。

ダイオキシンについて、十年前に牛乳・乳製品の規制値を設けたオランダでは、一九八〇年代後半にロッテルダム近郊にある同国最大のごみ焼却施設周辺で、乳脂肪一グラム当たり十二ピコグラムのダイオキシンが検出され、大きな社会問題になった。これを受けて、牛乳・乳製品の規制値が設けられた。

ドイツでも、五ピコグラムを超えると取引禁止するだけでなく、三ピコグラム以上が検出されれば、ダイオキシンの発生源の調査と、削減対策が求められる。対策を取っても濃度が下がらない場合は、土地の利用形態を変更するよう勧告される。「最も望ましい基準」として、〇・九ピコグラムという数値も示している。

今回の調査は本来なら、国が取り組むべき性質のものだ。調査対象が農家十軒だったことについて、精度を問う声もある。しかし、調査結果は全国調査の必要性をはっきり示している。

(菱山出)

 

《朝日新聞社asahi.com 1998年04月02日より抜粋》

 

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