19980308

輸入脱脂粉乳を“人質”、乳価交渉に農林族介入 輸出国と摩擦も


1998年03月08日

生産者団体と乳業会社との間で決められる飲用牛乳の乳価交渉が生産者団体側に有利になるよう、自民党の農林族議員が「政治力」を使った介入をしていることが七日、明らかになった。国が一元的に輸入している割安な輸入脱脂粉乳の乳業会社への売り渡しを乳価決定まで中止することを決議し、農水省に異例の申し入れをしているのだ。乳業会社は「乳価には関係のない商品を利用した、露骨な政治介入。族議員の本性丸出し」と反発。農水省も「脱脂粉乳の輸出国から非難を浴び、国際問題に発展しかねない」と困惑している。

脱脂粉乳はヨーグルトやアイスクリームなどの加工原料に使われ、乳業会社にとっての必需品。農林族はこれを「人質」にとり、メーカー側に揺さぶりをかけるのを狙っている。

決議は先月末に開かれた自民党の畜産・酪農対策小委員会で行われた。農林族は当初、決議内容を文書にするつもりだったが、農水省が「文書にすれば証拠が残る」と関係議員を説得して回り、口頭での申し入れに落ち着いたという。

来年度の飲用乳価交渉は四月から本格化し、妥結まで一年近く長引くこともある。雪印乳業、明治乳業、森永乳業という大手三社に対し、生産者団体は各都道府県ごとに交渉をするので、生産者側の立場が弱いといわれ、昨年度は一キロあたり三円五十銭から五円の大幅な引き下げとなった。

畜産主産地の鹿児島県選出の農林族幹部の言い分は、「両者の交渉力は横綱と幕下力士ほどの差がある。大手乳業会社の買いたたきは許さない」で、乳業会社をけん制するため輸入脱脂粉乳に目をつけた。

脱脂粉乳は、乳製品の輸入関税化を決めた一九九三年末のウルグアイ・ラウンド農業合意に基づき、農水省所管の農畜産業振興事業団が毎年度、国内消費量約二十万トンの一割弱を低関税で輸入している。国産の脱脂粉乳相場が高騰したときに、輸入品を市場に放出する仕組みだ。

脱脂粉乳は国内で不足しており、国内相場は輸入品を市場放出しなければならない指標価格の上限を四年近くも上回り続けている。需要期の夏場に向けて、輸入脱脂粉乳が放出されないと、暴騰する恐れもある。

農水省は「決議を無視するわけにはいかない」(畜産局幹部)としながらも、脱脂粉乳の主要輸出国がオーストラリアやニュージーランドなど、ケアンズ・グループと呼ばれる貿易自由化推進派の諸国であることから、「日本たたきの格好な口実を与えるようなものだ」と苦慮している。

 

《朝日新聞社asahi.com 1998年03月08日より抜粋》

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です