20160206

(西発見)「落とし物」ヤギ、恩返し 新たな飼い主癒やし、草刈りも 【西部】


2016年02月06日

ヤギは首輪をつけたまま、福岡県の山間部をさまよっていた。警察署に「落とし物」として届けられたが持ち主は現れない。寂しげな様子に署員も気をもんだが、救いの手が差し伸べられた。ヤギは新たな飼い主を癒やし、恩返しとばかりに空き地の「草刈り」に励んでいる。

 

メエエエエ――。福岡市早良区の空き地に鳴き声が響く。近くに住む自営業石津和幸さん(67)を見つけると、1頭のヤギが近づいて寄り添ってきた。「よしよし」となでる。「愛嬌(あいきょう)があって、毎日癒やされています」と笑顔を見せた。

名前はメー子。体長約1メートルのメスだ。出会いは2カ月ほど前にさかのぼる。

昨年10月上旬、福岡県篠栗町の山間部の道路でうろついているところを近くの住民が見つけ、近くの粕屋署に「落とし物」として届けた。署の敷地内に生える草や、署員が持ち寄るキャベツやニンジンを食べた。だが、「どことなく寂しげだった」と同署の大寺康裕副署長。首輪がついており、署はペットとして飼われていたが捨てられた可能性が高いとみている。

11月初旬、ヤギが拾われたというニュースをテレビで見た石津さん。「動物がなぜ捨てられるのか。かわいそうだ」。すぐに署に電話し、引き取りたいと告げた。県警によると、動物が届けられた場合、3カ月以内に落とし主が見つからなければ、警察は拾った人に飼えないか尋ねる。だが、他に希望者がいれば譲り渡すこともあるという。

動物好きの石津さんはかつて、犬や豚をペットとして飼ったことがあるが、ヤギは初めてだ。12月、署に引き取りに行くと、いきなり頭突きされた。「少し恐怖も感じた」。だが、連れ帰って自宅近くの空き地に放すと、すぐに落ち着いて草をはみ始めたという。

小屋を作り、友人の森岡繁さん(66)と一緒に世話を始めた。えさのキャベツや大根の葉は、知り合いのスーパーや八百屋が譲ってくれ、えさ代はかからない。1日に段ボール2箱分の葉っぱをもりもり食べる。

メー子を引き取ったのにはもう一つ理由がある。

実は石津さんは空き地の伸びきった草に困っていた。メー子のニュースを見た時に「これだ」と思い立った。

農地や団地などで、ヤギに雑草を食べてもらい、除草にかかる費用や手間を軽減する試みは全国に広がっている。空き地の広さは約200平方メートル。「メー子が食べてくれるおかげできれいになりました」と石津さんは喜ぶ。

拾われてから3カ月たった今年1月、石津さんはメー子の正式な飼い主になった。今では手招きしなくても寄ってくる。孫の颯士(そうしん)君(5)も「頭突きされたこともあるけど、顔がかわいい」とすっかりお気に入り。一緒に近所を散歩するのが日課の石津さんは「えさはたくさんあるし、動く場所もあるので環境は良いはず。お互いに病気をしないで元気に長生きしたい」。

(比留間陽介)

 

■「拾得」ヤギ、昨年は6頭 福岡県警

福岡県畜産課によると、県内で家畜やペットとして飼われているヤギは140頭ほどいるという。県警会計課に尋ねると、昨年1年間に「落とし物」として届けられたヤギは6頭。メー子を除く5頭は誤って逃げ出したとみられ、飼い主が引き取った。

犬の場合、昨年県内で拾われた約670匹のうち約460匹が元の飼い主へ、約120匹が拾い主へ渡った。残りも希望者や民間団体に引き取られ、保健所で殺処分となるのはごくまれという。会計課幹部は「なるべく処分されずに飼い続けてもらえるよう、引き取り手探しに努めている」と話す。

 

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【写真説明】

石津和幸さんとヤギのメー子=福岡市早良区

 

《朝日新聞社asahi.com 2016年02月06日より抜粋》

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