19980106

動物工場


1998年01月06日

動物工場 クローンで薬、効率生産 歯止め必要(みんなのQ&A)

Q 去年末のクローン羊に薬の成分を作らせるという話にはびっくりした。「動物工場」に道を開く技術といわれているけれど。
A 遺伝子組み換えの技術で人の遺伝子を組み込んだ羊からクローンをつくったという話だね。血液には、けがをした時などに血を固める働きをする血液凝固因子という成分が含まれている。英国の研究所が、昨年夏に誕生させたクローン羊「ポリー」が、人の血液凝固因子をつくる遺伝子を持つことが明らかになった。メス羊なので、大きくなって乳を出せば、その中に血友病の患者の薬にできる血液凝固因子が含まれると期待されている。

Q なぜ羊に薬をつくらせるの。
A 人の体が作り出すたんぱく質を薬にする場合、動物の細胞に作らせて取り出せれば、製造は簡単だ。人の血液凝固因子で第八因子と呼ばれる成分は、実際にハムスターの細胞に人の遺伝子を組み込んで作らせたものが使われている。今回、羊に組み込んだのは第九因子と呼ばれる成分だが、第八因子の欠乏症に比べると患者の人数が少ないので、今はまだ献血の血液から取り出した血液製剤を使っている。

Q 動物につくらせる利点はあるの。
A 血液中に含まれる医薬品として利用可能なたんぱく質は、人の血液から取り出せる量はわずかだ。それに、こうしたたんぱく質は比較的大きなものが多く、遺伝子組み換えによく利用される大腸菌や酵母で作らせることは難しい。そこで、家畜に人の遺伝子を組み込んで、人のたんぱく質をつくらせる研究が各国で進んでいる。英国や米国ではすでに薬としての臨床試験も始まっているんだ。

Q どうしてクローン羊を使うの。
A 家畜の受精卵の核の中に人の遺伝子を入れる普通の遺伝子組み換えでもいいんだけれど、遺伝子組み換えが起きて生まれる確率が一%以下と低い。そこで、遺伝子組み換えが成功した羊の細胞をもとに、クローン技術で遺伝情報がまったく同じ羊をつくることにしたんだ。英国で使ったのは分裂しやすい胎児細胞なので、人の遺伝子を持った羊の誕生の効率が十倍程度高まったという話だ。

Q 本当に薬として使えるのかなあ。
A 羊の乳の中に血液凝固因子がどのくらい含まれるのかがポイントだ。薬として使うには安全性や有効性などいくつもの試験の関門をくぐらないといけない。でも、クローン羊の誕生で、人間にとって有用なさまざまなたんぱく質を生産する「動物工場」の技術にめどをつけたことは画期的だと思うよ。

Q そういっても、羊に人間の遺伝子を組み込むというのはちょっと気味が悪いね。
A こうした技術が突っ走っていくのは確かに怖い気がする。クローン羊の誕生をきっかけに、政府の科学技術会議がクローン技術の人への応用の禁止を決めたが、乳のよく出る牛や肉質のよい牛を効率よく生産するのに役立つ家畜での研究は進めていく方針だ。でも、遺伝子組み換えとクローン技術を組み合わせることについては、問題点や歯止めのかけ方などをきちんと検討してもらいたいね。

(由衛辰寿・科学部)

【写真説明】

人の血液凝固因子の遺伝子を持つクローン羊「ポリー」(左)と世界初の体細胞からのクローン羊「ドリー」=AP

 

《朝日新聞 1998/01/06より引用》

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です