19971001

地鶏ってどんなトリ? 正真正銘、わずか2%(モノわかりのいい話)


1997年10月01日

仕事帰り、行きつけの地鶏(じどり)専門店で食べる焼き鳥は、たまらなくうまい。肉がしまって、味が濃くて。だから、家庭でもこの味をと、いつもスーパーでは「自然育ち」「コクがあります」といった触れ込みの「こだわり鶏肉」を買っている。でも、値段の割に、味は「?」というものが少なくない。ひとくちに「地鶏」っていうけれど、いったいどんなトリなんだろう。(浅野真)

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まず、鶏肉業者の団体、日本食鳥協会を訪ねた。応対にあたった参与の波多江国徳さんが、協会が昨年発行したガイドブック「国産銘柄鶏MAP」を見せてくれた。

「津軽どり」「地養鳥」「日向鶏」「阿波すだち鳥」……。北海道産から沖縄産まで、あるわあるわ、なんと百二十種類。「これ全部地鶏ですか」と聞くと、波多江さんは「いや違います。どういう基準で買えばいいかわからない、という声が多くて、実は今春、『地鶏』『銘柄鶏』と区別したんですよ」。銘柄鶏?聞いたことないぞ。

協会の定義を要約すると、「地鶏」は名古屋コーチン、シャモ、比内鶏など在来鶏の純系か、少なくとも片親が在来鶏であり、かつ飼育期間を長くしたもの。

これに対し「銘柄鶏」は血統ではなく、飼育の工夫に重点を置いたものをいう。ブロイラーや赤鶏でも、飼育日数(通常五十日程度)を延ばしたり、植物性のエサを使ったりすると、銘柄鶏と称していい。

この定義だと、産地や銘柄をうたう鶏の生産量のうち、九〇%以上は「銘柄鶏」になる。「地鶏」は国産全体の二%ほどしかない。そうか、私が今まで買っていたのは、ほとんど銘柄鶏だったのだ。

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例えば、ダイエーグループ全店で扱う「伊達赤鶏」。もも肉で百グラムあたり百六十八円。ブロイラーより六十円高いが、売り上げは好調だ。「赤鶏を農薬散布のない土地で約九十日間放し飼いにし、低カロリーのエサを与えています。銘柄鶏とは表示していませんが、飼育方法などをリーフレットなどで説明しています」(同社)という。

大手スーパーの多くが独自の銘柄鶏を手がけ、「家庭で食べる鶏肉の三分の一は銘柄鶏」(鶏肉業者)という時代だが、店頭で区別して表示する例はほとんどない。銘柄鶏を、地鶏の名で売っている例も見た。これでは、消費者に正しく伝わらない。「小売り段階まで浸透していないのは事実。パックへの表示方法を検討中です」と波多江さん。

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では地鶏の世界はどうなのか。名古屋コーチンを生産している愛知県春日井市の稲垣利幸さん(六八)を訪ねた。

ここでは生後約百五十日ほどかけて鶏を成熟させる。手間がかかる分、価格はブロイラーの三、四倍はする。

地元では、地鶏ブームに乗って、コーチンの生産を始めた養鶏業者も少なくない。だが、飼い方、エサの種類なども千差万別。今年は、海外で飼育した「ベトナム産 名古屋コーチン」まで登場した。「たくさんありすぎて、我々にもよくわからない。消費者は混乱しているだろうね」と稲垣さんは苦笑いする。

うーむ、海外産の地鶏まであるのか。そもそも地鶏であっても、完全な純系は限られている。国の見解を求めて農水省に聞くと、「特定JAS」の名称で鶏肉の規格作りをしている最中だった。来年にも、地鶏について、平飼いだったら一平方メートルあたり何羽、飼育期間は何日以上などの基準を作るという。

首都圏のある鶏肉業者は「銘柄鶏の中には、味的には期待はずれのものもある。地鶏ブームは、業者のイメージ戦略ばかりが先行した。いい加減なものは、いずれ消えるでしょう」と話している。

(イラスト・松村宏)

●記者の一言

地鶏がよくて、銘柄鶏が悪いということではない。生産者の工夫が味と価格に反映されればいい。ただし、肉質によって料理法も違うのだから、どの店で買っても、消費者にはっきり分かる表示は必要だろう。少なくとも地鶏と銘柄鶏の区分表示ぐらいは、すぐに実行すべきだ。

身近なモノ、サービスに記者が迫ります。毎週水曜日に掲載します。ご意見をお寄せください。

【写真説明】

平飼いで育てられる名古屋コーチン=愛知県春日井市で

 

《朝日新聞社asahi.com 1997年10月01日より抜粋》

 

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