米ケンタッキー州、味の合唱 フライドチキンだけではありません
1997年09月12日
農畜産物に恵まれた米国ケンタッキー州は、テキサス州などと並んで、いわゆる米国南部料理の種類が豊富なことで知られる。同州で三十九年間続く手作りのミュージカル「ケンタッキーの我が家 フォスター物語」(朝日新聞社など主催)の東京公演が十五日まで開かれている。ケンタッキー州で米国公演を取材した折、当地ならではの味を訪ねた。(浅野真)
バーボンや名馬の産地として知られるケンタッキー州は、このほか大豆などの豆類、トウモロコシ、ハムなど畜産加工品なども多い。豊富な食材を生かした素朴な味が特徴だ。
州最大の都市ルイビルから車で約一時間。シェルビービルの町にあるレストラン、「クラウディア・サンダース・ディナーハウス」を訪ねた。
木造二階建て、赤い屋根の同店は、もともとフライドチキンで有名になったカーネル・サンダースと妻のクラウディアさんが始めた。米国南部特有の「サザン・ホスピタリティー」という、飾らない温かなもてなしの心を今に残す店だという。
五十種類を超えるメニューを見ると、フライドチキンに混じって、ケンタッキー産のカントリーハムのステーキ、地元の野菜を使った温かい野菜料理などが並ぶ。現支配人のトミー・セトルさんは「香辛料をかなり使ったり、野菜料理の味付けにハムの切れ端を入れたりしているのが料理の特徴。料理のレシピのほとんどはカーネル・サンダースから伝えられたもの」という。トミーさん自身も、カーネルから手ほどきを受けた。「とにかく完ぺき主義者で、常に胸ポケットにスプーンを入れて、味見をしていた」と振り返る。
野戦料理として生まれたとされる煮込み料理がバグー。家によって作り方はさまざまだが、鶏や牛肉にジャガイモ、タマネギ、トウモロコシ、トマト、豆類などを入れ、黒、赤コショウ、塩などで味付けて煮込む。多人数向けの料理で、野外パーティーやケンタッキーダービーの前などに作られるという。
もうひとつの名物料理が「ホットブラウン」。八十年ほど前、ルイビルにあるブラウンホテルのシェフが考案した料理で、トーストしたパンの上にケンタッキー特産の七面鳥の切り身肉を置き、ソースやチーズなどをのせて焼く。たちまち人気が出て、ほかの店や家庭など広く州内で作られるようになった。
こうした州独自のメニューの豊富さを裏付けるように、ケンタッキー州の料理レシピを紹介した本もたくさん書店に並んでいる。ケンタッキー大学が出版した「A Taste of Kentucky」は一八〇〇年代、一九〇〇年代前半のケンタッキーの人々の暮らしぶりを撮った写真をまじえながら、百種類以上のレシピを紹介。レストラン支配人のトミーさんも夫婦共著で料理本を出している。このほか事典並みの厚さの本や、名産のバーボンを使った料理を集めたレシピ集などもあり、伝統の味を後世に伝えている。
【写真説明】
野菜料理 ナスとクラッカーを煮た料理もある=いずれも米国ケンタッキー州で、椎木晃一郎さん撮影
自家製ハム 自家製のカントリーハムを手にした支配人のトミーさん。「昔のレシピを忠実に再現することを心がけている」という
《朝日新聞 1997/09/12より引用》