8割品目「価格下落も」 牛や豚、アジなど TPP・畜産水産分析
2015年11月05日
農林水産省は4日、環太平洋経済連携協定(TPP)の畜産品、乳製品、水産物などへの影響について、主要な19品目の分析結果を公表した。牛肉や豚肉、アジ、サバなど8割近い15品目で、生産者側にとって「価格が下落する懸念がある」と指摘した。
畜産品は、全5品目で「価格下落の懸念」を指摘。特に牛肉は38・5%の関税がTPP発効16年目に9%になるため、影響が大きいとされている。脂肪分が多く高級な和牛は、「品質・価格面で輸入牛肉と差別化」されているとして、「輸入の急増は見込み難い」と分析。一方、「国産牛」として格安で売られるホルスタインなど乳用牛の肉は、赤身が多いため、「米国・豪州等からの輸入牛肉と競合し、価格の下落も懸念される」と指摘した。
乳製品は、生乳計7万トン分のバター・脱脂粉乳の輸入枠が設けられた。国による貿易管理が維持されるため「無秩序に輸入されることはなく、乳製品全体の国内需給への悪影響は回避の見込み」とした。しかし、チーズなどの関税が削減・撤廃されるため加工向けについては「乳価の下落も懸念される」とした。
水産物は12品目のうち、干しノリ、コンブ、ワカメ・ヒジキ、ウナギの4品目で「特段の影響は見込み難い」とした。海藻類は関税削減が15%にとどまった上に、いずれもTPP不参加の中国や韓国からの輸入が多いためだ。
4日午後にあったTPPの農業対策を話し合う自民党の会合では、出席した国会議員から「楽観的すぎ」「安い肉が入ってくれば水産物の消費は減る。そうした全体的な分析が必要だ」などの指摘が相次いだ。
一方、日本からの輸出への影響について、重点的に輸出を強化している品目(コメ、花、牛肉など)のすべてが関税撤廃となり、「さらなる拡大が期待(できる)」と分析した。
自民党は今週末、高知や兵庫など各地で農業団体などの意見を聞き、17日までに農業対策をまとめる。(大畑滋生)
■畜産・水産・林産品の関税はどう変わる
<牛肉>
【関税の変化】38.5%→16年目に9%
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、鹿児島、宮崎(35)
<豚肉>
【関税の変化】低・中価格帯の関税(最大キロ482円)→10年目に50円
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】鹿児島、宮崎、千葉(91)
<乳製品>
【関税の変化】チーズの一部(29.8%)→16年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、関東、九州(744)
<鶏肉>
【関税の変化】8.5~11.9%→6~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】宮崎、鹿児島、岩手(145)
<鶏卵>
【関税の変化】8~21.3%→即時~13年目に撤廃(一部除く)
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】茨城、千葉、鹿児島(251)
<アジ>
【関税の変化】10%→16年目に撤廃(米国を除く)
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】長崎、島根、福岡(17)
<サバ>
【関税の変化】7~10%→16年目に撤廃(米国を除く)
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】茨城、静岡、長崎(38)
<イワシ>
【関税の変化】10%→6~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】茨城、島根、千葉(21.8)
<ホタテ>
【関税の変化】10%→11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、青森、宮城(51)
<マダラ>
【関税の変化】4.2~10%→即時~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、岩手、宮城(6)
<イカ類>
【関税の変化】3.5~5%→6~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、青森、石川(22)
<マグロ・カツオ類>
【関税の変化】3.5%→即時~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】静岡、三重、高知(49)
<サケ・マス類>
【関税の変化】3.5%→即時~11年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、岩手、宮城(17)
<合板>
【関税の変化】6~10%→11~16年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】――(511)
<角材>
【関税の変化】4.8%→即時~16年目に撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】広島、北海道、宮崎(1010)
<干しノリ>
【関税の変化】1枚1.5円か40%→即時15%削減
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】佐賀、福岡、兵庫(31)
<コンブ>
【関税の変化】15%→即時に12.7%
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】北海道、岩手、青森(9)
<ワカメ・ヒジキ>
【関税の変化】10.5%→即時に8.9%
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】岩手、宮城、徳島(5)
<ウナギ>
【関税の変化】3.5%→即時撤廃
【主な産地や水揚げ地(国内生産量)】鹿児島、愛知、宮崎(1)
〈国内生産量は万トン。合板、角材は万立方メートル。2013年度〉
《朝日新聞社asahi.com 2015年11月05日より抜粋》