(社説)飼料用米増産 主食用含めた抜本策を
2015年10月29日
家畜に食べさせる飼料用米の生産は今年度、8万ヘクタールの作付けで42万トンが見込まれている。一昨年度と比べ、ともに4倍近い水準だ。主食用米の国内需要が年800万トンを割り込み、毎年8万トンのペースで減り続けているのと対照的である。
増産の原動力は、農家への手厚い交付金だ。飼料用米は主食用ほど品質や食味が求められない一方、販売価格は安く、農家の所得は減ってしまう。その差を補うのが交付金の目的で、最大で10アールあたり10万5千円。田んぼで麦や大豆を作る場合の3万5千円を大きく上回る。
国内消費が減り続ける主食用米を増産すれば米価が下落し、農家が困る。飼料用米の生産は耕作放棄地の増加に歯止めをかけ、えさ用とうもろこしの輸入が抑えられて食料自給率は高まる。そんな考えから、農林水産省は飼料用米の生産を10年後に年110万トンまで増やし、主食用の減少を穴埋めする方針だ。
ただ、その政策に多額の公費が投じられていることを忘れてはなるまい。今年度の国の予算では、麦などへの転作や二毛作への助成も含め、水田活用のための交付金が2700億円余も計上されている。水田の維持は環境や景観の保全、地域社会の存続につながるのは確かだが、国民負担が伴う。
主食用を含めたコメ全体の競争力を高めていく対策をなおざりにしてはならない。
農水省は、飼料用米の生産コストを下げ、より安い価格で畜産農家や飼料メーカーに提供できるようにするため、省内に対策チームを立ち上げた。
とはいえ、飼料用米の生産費の半分強を人件費や農機具費、田の賃料など主食用米と共通する項目が占める。米作全般について農地の集約と大規模化を進めるなど、抜本策が不可欠だ。
主食用のコメではおいしさばかりが話題になるが、国内消費の3分の1は外食や弁当・おにぎりなどの「中食」が占め、安さは無視できない。政府が力を入れる輸出でも、価格が高ければ大きく伸ばすのは難しい。
安倍政権はコメの生産調整(減反)を3年後にも「廃止」する方針だが、主食用とそれ以外のコメを区分し、食用の需給バランスに腐心する姿勢は変わらない。激変を避けることは必要だとしても、「おいしくて高くない、安いコメ」を掲げて内外の市場をてこ入れし、開拓できるかが問われている。
縮む国内市場を安定させることにきゅうきゅうとし、交付金ばかりが増えていくようでは、米作の展望は開けない。
《朝日新聞社asahi.com 2015年10月29日より抜粋》