20151004

「地域学部」花盛り 国立大、地元貢献を重視


2015年10月04日

地方の国立大学に「地域」を冠した学部が次々と誕生する。今春の高知大をはじめ、来春には宇都宮大、福井大、佐賀大、宮崎大で新設される。少子高齢化や地場産業の衰退などが深刻化する中、地域課題の解決に役立つ人材育成をめざす。

 

■棚田で田植え

高知県の仁淀川町長者地区。山肌に広がる美しい棚田で5月下旬、大学生17人が地元の農家とともに田植えをしていた。4月に高知大に新設された地域協働学部の実習だ。前期はキャンプ場の草刈りやお祭りの手伝いにも取り組んだ。

学部のモットーは現場重視。専門科目の4割強、約600時間を地域実習に充てる方針だ。上田健作学部長は「土にまみれて、が本当の地域づくり。まず地域のことを知る。そして住民と協力し、地域の課題に立ち向かう」と意気込む。

1期生67人のうち50人が県外組だ。島根県出身の富岡優太さん(19)は公務員志望。「島根も人口がどんどん流出している。この学部で地域課題の解決方法を学び、いずれは地元を元気にしたい」と話す。

学生を受け入れた西森勇幸さん(68)は「我々の想像力では限界がある。学生のユニークな発想をどんどん採り入れたい」と期待する。

 

■講師に陶芸家

佐賀大の新学部は、地元のブランドである「有田焼」をはじめとする陶磁器産業を支える教育研究の一翼を担う。マネジメントも学び、販路開拓を担える人材も育てる。県内在住の人間国宝の陶芸家らも非常勤講師となる予定。佛淵(ほとけぶち)孝夫前学長は「有田焼だけでなく、文化や歴史を生かした産業の発展に寄与し、地域貢献をめざす。大学が知の拠点として地域にかかわる、地方大学のモデルになる」と話す。

宇都宮大の新学部は2040年に栃木県民の4割近くが65歳以上になるとの試算にもとづき、高齢化問題に力を入れる方針。高齢者が「交通弱者」になる問題などをテーマに取り上げる。

 

■深刻さ増す地方、背景

地域を冠した学部は、改革派知事の登場などで地方が注目された1996~2005年に岐阜、福井、鳥取、山形の4大学に設置された。以降の新設は途絶えていたが、今春と来春、急増した。

04年に鳥取大が地域学部をつくった当時、知事だった片山善博・慶応大教授は「自治体が独自政策を展開しようとする時、地域をよく知る大学にシンクタンク役を果たしてもらいたかった」と振り返る。今の地域学部ブームについては「地域の課題が多岐にわたり、深刻さも増しており、大学が地域貢献をミッションにすることは正しい」と話す。

鳥取大では地域学部が中心になって、学生が過疎集落で高齢者からかつての農作業や暮らしぶりを聞き取って冊子にまとめたり、鳥取市の中心市街地にある廃業した病院の建物を現代アートの展覧会を開く文化拠点に再生したりしてきた。

地方の国立大は、18歳人口の減少に直面。さらに文系学部は、社会に役立つ実学重視へ転換を迫られている。地域学部の創設には、特色ある学部の新設で生き残りをはかる狙いもあり、今後、広がる可能性がある。

片山氏は「鳥取大の研究者が、砂丘の農地化の研究を通して、食糧不足に悩むアフリカの乾燥地農業に力を発揮するなど、地域にこだわることが世界的な研究につながる例も多い」と指摘した上で「生き残りのため、『地域』の看板をかけるだけでは、意味がない。教育・研究の中身が一層問われる」と強調する。

(広江俊輔、編集委員・神田誠司)

■「地域」を冠した学部が続々誕生する

大学   学部      設置年度  主なテーマ

宇都宮大 地域デザイン科学 2016 交通弱者などの高齢化問題

福井大  国際地域     2016 地場産業の振興とグローバル化

佐賀大  芸術地域デザイン 2016 有田焼など陶磁器産業の人材育成

宮崎大  地域資源創成   2016 畜産、農業、観光の活性化

高知大  地域協働     2015 過疎化が進む中山間地域の振興

山形大  地域教育文化   2005 地域と連携した教員養成

鳥取大  地域       2004 地域の文化や遺産の継承

岐阜大  地域科学     1996 町おこしやコミュニティー再生

(1999年度にできた鳥取大の教育地域科学部が2004年度に地域学部に改組。99年度にできた福井大の教育地域科学部が16年度に国際地域学部と教育学部に再編)

【写真説明】

田植えをする高知大地域協働学部の1年生ら=高知県仁淀川町

《朝日新聞社asahi.com 2015年10月04日より抜粋》

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