(ニュースQ3)ブームの「熟成肉」って、「腐った肉」と何が違うの?
2015年09月29日
寝かせることでうまみが増すという「熟成肉」。扱う店が増えたが、実は「熟成」の定義はばらばらだ。店によって寝かせる状態も期間も違う。そもそも「腐った肉」と何が違うのか。
■乾燥をさせて、うまみを凝縮
焼き肉屋、スーパー、ワインバー……。あちこちで熟成肉を見かけるようになった。グルメサイトで「熟成肉」を検索すると、約1千件の店がヒットし、熟成肉の普及に取り組む「日本ドライエイジングビーフ普及協会」の加盟者も年々増えている。6年前にわずかな人数で発足したが、今では飲食店や食肉業者の関係者ら200人が参加する。
豚肉や牛タンを寝かせた熟成肉もあるが、牛の赤身を使うことが多い。高齢化や健康志向で近年は赤身も好まれるようになり、熟成肉も広まった。ワインを出す飲食店が増えたことも後押ししている。
協会によると、ルーツは米国にある。「ドライエイジング」と呼ばれる熟成法を国内の食肉業者が2008年ごろに取り入れた。
温度1~2度、湿度70~80%の熟成庫内で、送風機を使って1カ月以上乾燥させる。やがて表面が黒ずみ、カビが生え、全体の水分が飛んでうまみが凝縮される。腐っているのは、表面の数ミリだけで、出荷時にそこを削ると、再び鮮やかな赤身肉が姿を現す。ナッツのような香りも特徴だ。
都内の小川畜産興業が自社で製造する国産牛の熟成肉を、専門機関に分析してもらうと、うまみのもとになるアミノ酸が熟成前に比べて5倍以上に増えていた。酵素で肉の繊維がほぐれ、軟らかさも2割増しに。一方で、手間がかかるため、店頭価格は通常よりも約4割高くなるという。
■定義ばらばら、国が検討開始
協会が示す熟成法とは違うやり方の業者もある。肉を真空パックに入れて風を使わずに乾かす「ウェットエイジング」や、そのままの状態で乾燥させる「枯らし」などの方法もある。
例えば牛丼店。吉野家の熟成は「ウェット」で、冷凍庫から冷蔵庫に移して約2週間寝かせる。松屋は1~2カ月間のウェットで寝かせた肉を「プレミアム牛めし」「熟成」とうたう。ファミレスのロイヤルホストは昨年12月までの約2年間、チルド状態で30日以上寝かせたステーキ肉を「熟成」と表示してきた。
さまざまな肉が「熟成肉」とひとくくりにされて出回る中、農林水産省は今年度から熟成肉の定義を定めるかどうかの検討を始めた。品目ごとに品質や生産方法を示し、適合した製品を認める日本農林規格(JAS)に、熟成肉も加える可能性があるという。
■衛生面の管理、求める意見も
適切な環境で管理しないと有害な微生物が発生するため、衛生面のルールを求める声もある。小川畜産興業の高木聡・取締役本部長は「食中毒が起きたら熟成肉のイメージが悪くなってしまう」と心配する。「赤身より高いけど、霜降りよりは安い。選択肢の一つとして広まってほしい」
肉好きの記者も都内の焼き肉店で、45日間寝かせたドライの熟成肉を食べた。かむほどに酸味と濃い肉の味が口の中に広がった。ただ、約110グラムで2800円。「普段は食べられないけど、仕事を頑張った時にまた来よう」。そう思って店を後にした。
(小寺陽一郎、吉浜織恵、佐藤恵子)
【図】
牛肉はこう熟成する
《朝日新聞社asahi.com 2015年09月29日より抜粋》