[社説]和牛の遺伝資源 海外流出を抑止する法整備に
2020/02/23 05:00
貴重な和牛ブランドを守るには、受精卵や精液といった遺伝資源の海外流出を、未然に防ぐことが大切である。 農林水産省が、和牛の遺伝資源を不正に流出させる行為に刑事罰を科す新たな法案をまとめた。今国会に提出し、成立を目指す。
対象となるのは、輸出目的を隠して、畜産農家などから遺伝資源を入手したり、無断で第三者に譲渡したりする行為だ。個人には懲役10年または罰金1000万円、法人には罰金3億円を上限として、罰則が科せられる。
昨年、中国に和牛の遺伝資源を持ち出そうとした事件が摘発された。だが、流出を直接取り締まる法律がなく、家畜の伝染病を予防する法律が適用された。法規制の不備を埋める意義は大きい。
譲り渡した遺伝資源が悪用される可能性を畜産農家が察知した場合、譲渡先に対して遺伝資源の使用をやめるよう、裁判所に請求できる規定も設けられる。被害の未然防止に役立つだろう。
和牛は肉質が軟らかく、外国でも人気が高い。その遺伝資源は、日本の畜産農家による長年の改良努力のたまものである。海外へ流出して繁殖に使われると、和牛肉の輸出は減り、畜産農家が受ける打撃は計り知れない。
今回の法整備にあたって、農水省が、和牛の遺伝資源を知的財産として価値があると明確に位置付けたのは当然だ。
農水省は、畜産農家などが遺伝資源を売買する際に契約書を交わすことを要請する。「国外では利用しない」という条項を盛り込むのがポイントだ。違反があれば、違約金を請求できる。
遺伝資源の仲介業者などには、受精卵や精液の採取者の氏名を容器に明記させるほか、取引を記録した帳簿を作成してもらう。 こうした流通管理の厳格化によって、悪質業者の排除を図っていくことが欠かせない。
海外流出が懸念されるのは農作物も同様だ。国の研究機関が開発した高級ブドウ「シャインマスカット」の苗木は、中国や韓国に流れて現地で栽培され、東南アジア市場に流通している。
農水省は種苗法の改正案も今国会に提出する。開発者が新品種を登録する際、栽培地域を「国内」などに限定でき、条件に反する海外持ち出しに刑事罰を科す。
人口減少で国内消費が縮む中、政府は農産物の輸出拡大を目指している。ブランドの保護が国際競争力を高める上で不可欠だ。
《読売新聞 2020/02/23より引用》