20140701

九州の農林漁業、広がる6次産業化 国の認定件数、全国トップ 【西部】


2014年07月01日

農林漁業の「6次産業化」が九州で広がっている。この3年間に国が支援を決めた計画が全国最多の318件にのぼることが、九州農政局が30日まとめた2013年度の九州食料・農業・農村情勢報告(九州農業白書)でわかった。

6次産業化は、農林水産物の生産(1次産業)から加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)までを一体的に手がける取り組み。農林漁業の付加価値を高め、担い手の所得向上につなげようと、10年に6次産業化を支援する法律が成立した。国は事業計画を認定して補助金を出すなど支援に乗り出している。

全国で認定された事業計画は、13年度まで3年間の累計で1800件を超えた。うち九州が2割弱の318件を占める。これは近畿(317件)や関東(292件)を上回り、全国9地域でトップの件数だ。全国各地に官民ファンドをつくって資金支援する取り組みでも、出資が決まった全国24件のうち5件が九州の事業者向けだ。

野菜や果樹の栽培、畜産、養殖漁業など多様な1次産品の生産が盛んな九州で6次産業化への関心が高まっているが、農林漁業者には営業や販売のノウハウが乏しいことが多い。6次産業化を通じて農林漁業を活性化させるには「消費者目線の経営感覚が必要だ」と白書は指摘している。

■「中食」狙い、総菜の加工・販売 農業生産法人「出萌」(福岡市)
福岡市の農業生産法人「出萌(いずも)」は、自ら育てた発芽野菜の「ピーナッツもやし」などをつかって総菜の加工・販売に乗り出す。JAグループと国などがつくった6次産業化を支援するファンドから3500万円の出資を受けて千葉県成田市に総菜工場をつくり、年内に稼働させる。

総菜を自宅で食べる「中食(なかしょく)」の需要はますます伸びるとみて参入を決めた。主なターゲットは高齢者。もやしの総菜や肉じゃが、ポテトサラダなどをつくり、首都圏の百貨店などに売り込む。

学習塾を経営していた岩橋孝行社長は10年前に農業に参入。「おいしい野菜をつくるだけでは大手量販店とは取引できない」と、当時は無名だったピーナッツもやしの栽培を始めた。自ら居酒屋をまわって需要を開拓してきた。

いまでは福岡県糸島市や佐賀県みやき町でトマトやタマネギもつくり、13年度の売上高は14億円。トマトはペースト状に加工して食品メーカーに販売する。「新しい付加価値を生むには、農業の工業化が必要だ」と岩橋社長は話す。(長崎潤一郎)

■シャコの殻、ウナギのえさに 西日本冷食(福岡市)
すしネタになるシャコの輸入・加工と卸売りなどを手がける西日本冷食(福岡市)は、昨年からウナギの養殖に本格的に乗り出した。こちらは、2次・3次産業から1次産業へと事業を広げたケースだ。

岡山県でシャコを食べて育った天然ウナギが特産品になっていると知ったのがきっかけだった。シャコをむき身に加工する際に出る殻や、殻についた身など全体の60%ほどを廃棄していたが、捨てる部分をウナギのえさにして育てたら、天然ものに近い味になるのでは――。試行錯誤を3年間繰り返し、シャコを使ったえさづくりで特許を取得。事業化にこぎつけた。

いまでは福岡県朝倉市の原鶴温泉にほど近いプールで年に12万匹のウナギを育てている。地熱で温めた地下水の中を泳ぐウナギは、うまみや香りも良いと好評で、ほとんどを福岡市内の老舗ウナギ店に卸している。「筑紫金(つくしきん)うなぎ」の商標も登録した。井口浩一事業部長は「いずれは福岡産のブランドウナギとして全国に売り出したい」と話す。(角田要)

【写真説明】
出萌が手がける総菜=同社提供

西日本冷食がシャコをエサに養殖するウナギ=福岡県朝倉市

【図】 6次産業化の認定件数

 

《朝日新聞社asahi.com 2014年07月01日より引用》

 

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