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オージー牛、不安と歓迎 「コスト減限界」「和牛は負けない」EPA交渉 【西部】


2014年04月08日

オーストラリアとの経済連携協定(EPA)交渉で、日本の関税引き下げが大筋固まった豪州産牛。安い輸入肉の攻勢が強まる見通しで、九州の畜産や販売関係者の受け止めは複雑だ。▼1面参照

■身構える畜産農家
農林水産省によると、九州、山口、沖縄の牛の枝肉生産量は2012年で計約13万4千トン。全国の約25%を占めるだけに、畜産業者の間には「外国産に負けない」との自負と不安が入り交じる。

「肉のおいしさは黒毛和牛が一番。豪州産に負けない」と胸を張るのは、黒毛和牛で赤身のおいしさにこだわる牛肉を売る「ミート工房拓味」=宮崎県新富町=の矢野拓也社長(30)。エサにビタミン豊富な茶葉や焼酎かすを混ぜ、赤身主体の肉にしようと創意工夫をこらしてきた。霜降りに飽きた消費者をターゲットに、あえて「サシ」は入れていない。豪州産は赤身がほとんどだが、「消費者は味に敏感。いいものを出せばついてくるはず」と揺るがない。

一方で不安の声も多い。
同県高鍋町の畜産業長谷部将一さん(40)は「安い豪州産牛が入ってきたら、食費を抑えようとする消費者から国産は見向きもされなくなるのでは」と漏らす。

和牛のオリンピック「全国和牛能力共進会」の繁殖雌牛部門で1位になった永友浄さん(69)=同県都農町=は高齢化が進む県内農家の現状をふまえ、「農家の規模が国内と豪州とでは全く違う。豪州の『和牛』が輸入されたら太刀打ちできないのでは」と話した。

地元産の米を混ぜたエサで育てるホルスタインのブランド牛「えこめ牛」を飼育する吉良至誠さん(57)=熊本県菊池市=も「エサ代の高騰や消費増税で今でも苦しいのに」と嘆く1人だ。えこめ牛は通常のホルスタインと比べ、市場価格は1キロあたり20~30円高い程度。「安い肉が入れば消費者はそちらへ流れる。景気も上がりきらんし、経費を削ることも難しい」と言う。そのうえで「安い牛肉が入ってくれば、全体の価格が下がると思う。黒毛和牛などホルスタイン以外への影響も避けられない」。

肉用牛生産が全国1位の鹿児島県。今回の交渉で焦点となったのは冷凍牛肉や冷蔵牛肉だが、JA鹿児島県中央会の松下欣隆農政部長は「いずれ和牛にも何らかの影響は出てくるのでは」と懸念した。

■ステーキ店「ありがたい」
九州では生産だけではなく、牛肉はよく食べられてもいる。総務省の家計調査(2人以上の世帯)によると、都道府県庁所在市と政令指定市の購入額(11~13年平均)は、九州、山口、沖縄では8市が全国平均(1万8788円)を上回った。

購入額2万7761円で全国9番目の北九州市。同市小倉北区で和牛を専門に販売する精肉店長は「牛肉を安さだけで選ぶ人は輸入品に流れるだろうが、味や安全・安心にこだわる人は多い。それほど心配してない」と言う。

「歓迎すべきだ」と話すのは福岡県内で10店舗のステーキ店を経営する「うえすたん」の岩田日出人社長(61)。国産のほか、豪州産や米国産などの輸入肉を提供する。「中国での需要増など、最近は輸入肉の価格が上昇傾向で苦しい。関税が引き下げられるなら、ありがたい」と言う。

和牛などを卸す「ミヤチク」(宮崎県都城市)の担当者は「輸入肉の値が下がれば価格競争に巻き込まれるのではないか」と不安がる。県内では畜産が盛んだが、子牛の価格が上がり、農家は今でも経営が苦しいという。

牛肉の流通に詳しい中村学園大(福岡市)の甲斐諭学長(食料経済学)は「オージービーフが安く、多く流通するようになり、消費者には選択肢が増える」とみる。一方、九州の生産者への影響は「肉質が近く、深刻だ。肉牛の生産が減ると子牛の生産者など広範囲に影響が及び、地域経済全体が疲弊する可能性もある」と指摘。「価格だけでは太刀打ちできないだろう。積極的に輸出するべきだ。和牛のブランド化には国の細やかな支援も不可欠」と話した。

【写真説明】
ホルスタインと長谷部将一さん。「消費税が上がったこの時期に……」=宮崎県高鍋町、柴田秀並撮影
ステーキ店「うえすたん」の人気メニュー。手頃な値段の豪州産でボリュームたっぷり=7日夜、福岡県志免町、河合真人撮影

 

《朝日新聞社asahi.com 2014年04月08日より引用》

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