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「畜産の未来、描けない」 競合の生産者悲鳴 日豪EPA大筋合意

 


2014年04月08日

ホルスタインを育てる鎌田尚吾さんは「TPPも日豪EPAも議論が足りない」と話した=北海道士幌町、島田賢一郎撮影

ホルスタインを育てる鎌田尚吾さんは「TPPも日豪EPAも議論が足りない」と話した=北海道士幌町、島田賢一郎撮影

7日に大筋合意した日豪の経済連携協定(EPA)で、牛肉の段階的な関税引き下げが決まった。価格の安い豪州産牛肉に、国産牛はどれだけ対抗できるのか。競合が予想される畜産関係者に不安が広がる一方、消費者からは期待の声があがった。▼1面参照

「首の皮一枚のギリギリの経営。こんなひどい仕打ちは容認できない」。国内有数の肉牛の産地、北海道十勝地方の士幌町。肉用のホルスタイン1700頭を育てる鎌田尚吾さん(43)は怒りを隠さない。

ホルスタインは主に乳用として飼育されるが、乳の出ない雄は肉用に育てられる。その肉は和牛に比べて脂が少なく、値段が安いといった特徴が豪州産と重なる。2012年度に国内で生産された牛肉36万トンの31%がホルスタインだ。

最近の円安などで飼料価格が上がり、鎌田さんの牧場では経費が10~15%増えた。これ以上、豪州産牛肉が安く入ってくれば死活問題にもなりそうだ。首都圏のスーパーでのPR活動などを進めてきたが、さらなる規模拡大や投資ができる状況にはない。「国民の胃袋を支える気概を持っている農家は多いのに、未来のビジョンが描けない」と嘆いた。

ホルスタインと和牛の交雑種(F1)も、肉質が競合しそうだ。12年度の国産牛肉の21%を占める。

毎年4500頭のF1を出荷する岩手県の「キロサ肉畜生産センター」。竹内新也代表は「スーパーの輸入肉依存に拍車がかかれば、いくら産地が努力しても消費者に選んでもらえる機会を失ってしまう」と心配する。大手のスーパーでは今でも、輸入肉に押されて和牛以外の国産牛は苦戦を強いられているという。

■消費者には期待感
消費者からは、値下げに期待する声があがった。
豪州産を使う牛丼チェーンの「すき家」。7日夜、東京都千代田区のJR秋葉原駅そばの店舗から出てきた男性会社員(21)は「牛丼が安くなるならうれしい。4月から消費税が上がって買い物も控えがちだったので朗報だ」と喜んだ。別の男性会社員(38)も「豪州産に慣れてしまっているので、安いにこしたことはない」。

豪州産を使ったステーキを出す墨田区の洋食屋「レストラン カタヤマ」の片山幸弘会長(78)は、「関税が安くなることはウエルカム。メニューの値段が安くなれば、お客さんにも喜んでもらえる」と歓迎だ。店に来ていた足立区の主婦(50)は「牛肉が安く食べられるのはいい。ただ、やっぱり国産の方がおいしい。多少高くても安心な日本産を食べたい気持ちの方が強い」と話した。

■松阪牛産地は「何も怖くない」
和牛のブランド「松阪牛」の産地、三重県松阪市。松阪牛生産者でつくる松阪牛協議会副会長で、40頭を育てる磯田浩利さん(52)は「豪州牛は何も怖くない」と言い切る。

松阪牛の中でも「特産」がつく最高級は、霜降りできめ細かい肉質で豪州産にはまねができない。長期肥育の分、餌代はかかるが、磯田さんは「自信がなければ、松阪牛を名乗る意味がない」と話した。

7日に大筋合意した日豪の経済連携協定(EPA)で、牛肉の段階的な関税引き下げが決まった。価格の安い豪州産牛肉に、国産牛はどれだけ対抗できるのか。競合が予想される畜産関係者に不安が広がる一方、消費者からは期待の声があがった。▼1面参照

「首の皮一枚のギリギリの経営。こんなひどい仕打ちは容認できない」。国内有数の肉牛の産地、北海道十勝地方の士幌町。肉用のホルスタイン1700頭を育てる鎌田尚吾さん(43)は怒りを隠さない。

ホルスタインは主に乳用として飼育されるが、乳の出ない雄は肉用に育てられる。その肉は和牛に比べて脂が少なく、値段が安いといった特徴が豪州産と重なる。2012年度に国内で生産された牛肉36万トンの31%がホルスタインだ。

最近の円安などで飼料価格が上がり、鎌田さんの牧場では経費が10~15%増えた。これ以上、豪州産牛肉が安く入ってくれば死活問題にもなりそうだ。首都圏のスーパーでのPR活動などを進めてきたが、さらなる規模拡大や投資ができる状況にはない。「国民の胃袋を支える気概を持っている農家は多いのに、未来のビジョンが描けない」と嘆いた。

ホルスタインと和牛の交雑種(F1)も、肉質が競合しそうだ。12年度の国産牛肉の21%を占める。
毎年4500頭のF1を出荷する岩手県の「キロサ肉畜生産センター」。竹内新也代表は「スーパーの輸入肉依存に拍車がかかれば、いくら産地が努力しても消費者に選んでもらえる機会を失ってしまう」と心配する。大手のスーパーでは今でも、輸入肉に押されて和牛以外の国産牛は苦戦を強いられているという。

■消費者には期待感
消費者からは、値下げに期待する声があがった。

豪州産を使う牛丼チェーンの「すき家」。7日夜、東京都千代田区のJR秋葉原駅そばの店舗から出てきた男性会社員(21)は「牛丼が安くなるならうれしい。4月から消費税が上がって買い物も控えがちだったので朗報だ」と喜んだ。別の男性会社員(38)も「豪州産に慣れてしまっているので、安いにこしたことはない」。

豪州産を使ったステーキを出す墨田区の洋食屋「レストラン カタヤマ」の片山幸弘会長(78)は、「関税が安くなることはウエルカム。メニューの値段が安くなれば、お客さんにも喜んでもらえる」と歓迎だ。店に来ていた足立区の主婦(50)は「牛肉が安く食べられるのはいい。ただ、やっぱり国産の方がおいしい。多少高くても安心な日本産を食べたい気持ちの方が強い」と話した。

■松阪牛産地は「何も怖くない」
和牛のブランド「松阪牛」の産地、三重県松阪市。松阪牛生産者でつくる松阪牛協議会副会長で、40頭を育てる磯田浩利さん(52)は「豪州牛は何も怖くない」と言い切る。

松阪牛の中でも「特産」がつく最高級は、霜降りできめ細かい肉質で豪州産にはまねができない。長期肥育の分、餌代はかかるが、磯田さんは「自信がなければ、松阪牛を名乗る意味がない」と話した。

【写真説明】
ホルスタインを育てる鎌田尚吾さんは「TPPも日豪EPAも議論が足りない」と話した=北海道士幌町、島田賢一郎撮影

 

《朝日新聞社asahi.com 2014年04月08日より引用》

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