(プロメテウスの罠)内部告発者:28 地元にも責任がある
2014年03月31日
◇No.876
今年3月9日、福島県楢葉町の役場の大会議室で、町の復興推進委員会が開かれた。委員会のメンバー、栃久保寿治(59)も出席した。 町長の松本幸英(まつもとゆきえい)(53)は「今春、帰町の判断をする」と表明している。しかし、帰町と決まっても、住民の全員が帰ってくることはないだろう。特に子どもたちが戻ってくるのは一部にとどまる。栃久保はそう予想する。
そんな中で、以前と同じように学習塾を営むことは不可能だ。
「住民の多くは農林畜産業も含めて、町に帰って事業を再開したい。しかし当初は戻ってくる人は限られる。スーパーであれ医療機関であれ、赤字覚悟でやらなければならない。それはどうするのか」
栃久保の質問に町長の松本は「十分に私も承知している」と答えた。しかし栃久保の不安は消えない。
大熊町にある栃久保の実家は、環境省の計画案によれば、除染で出る廃棄物などの中間貯蔵施設の建設予定地に入っている。
放射性廃棄物という原発の負の遺産をどうするのか――。元GE社員、ケイ・スガオカ(62)の内部告発をきっかけに栃久保は震災前から何度も何度も繰り返し国、東京電力、町に問うてきた。しかし、だれからも答えは得られなかった。
「最初は、東京で半分、地元で半分を処理すべきだと思っていました。だけどよく考えたら、東京の人は電気代を払って電気を買っているだけのお客さんなんです」
「原発の恩恵をもっとも受けているのは、やっぱり立地の地元なんだと思います」
震災前、当時の町長に「楢葉町にある2基の原発から出た廃棄物は楢葉町の沖の海底の地下に処分せざるを得ないのではないか。住民合意に10年以上かかるでしょうが」と提案したこともある。
地元の「原発を受け入れた責任」を栃久保は指摘する。東電の隠蔽(いんぺい)体質が明らかになった後でさえ、町はチェック機能を果たさなかった。
「スガオカのような専門家を呼んで、自分たちの町にある原発が安全なのかどうか、町の人に知らせる。そういうシステムが必要だった。でも、それをしてこなかった」
「中間貯蔵」などとウソをついてごまかすのではなく、最終処分をどうするのかをはっきりしてほしい――。栃久保は大声で問いただし続けようと決めている。声を上げたスガオカを見習って。(奥山俊宏)
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【プロメテウス】人類に火を与えたギリシャ神話の神族
【写真説明】
楢葉町の自宅前の栃久保さん
《朝日新聞社asahi.com 2014年3月31日より引用》