20140223

豚の伝染病、被害続く 防疫強化「まだ甘いのか」 九州南部 【西部】


2014年02月23日

豚の伝染病「豚流行性下痢」(PED)=キーワード=が、全国有数の産地の九州南部を中心に流行している。治れば出荷出来るため移動制限などの対象ではないが、幼い豚は致死率が高く、地元自治体は対策を強化している。生産者からは出荷への影響を心配する声が聞かれる。

宮崎県のある養豚農場では1月、生まれたばかりの子豚約1300頭が死んだ。経営する男性(42)は、子豚の評価額だけで数百万円の損失と試算する。子豚は半年育てて食肉処理場に出荷すると1頭3万5千円ほどになる。「無事に出荷できれば、5千万円近い売り上げが見込めた」

宮崎県では2010年、牛や豚など30万頭を殺処分した口蹄疫(こうていえき)が発生。苦い経験を踏まえ、県内の農家は防疫に力を注いできた。

男性の農場は口蹄疫以前から、母豚約1300頭と幼い子豚がいる分娩(ぶんべん)舎と、子豚を出荷できるまで育てる肥育エリアを500メートル以上離してリスクを分散。豚を出荷する車はウイルスを持ち込まないよう農場から500メートル離して止めた。従業員は豚舎への出入りのたびにシャワーを浴びて服を着替える。

「これだけやっても甘いのか」。男性は落胆する。

鹿児島、宮崎両県はエサや出荷する豚を載せた車両が頻繁に行き来する。感染拡大を防ごうと、宮崎県は2月12日から幹線道路に車の消毒ポイントを設け、薬剤を散布。鹿児島県は未発生地域への拡大を食い止めるため、農家を集めた講習で地域ぐるみで消毒に当たるよう促している。ただ、1月15日から道路への消毒液の散布を続ける同県鹿屋市の担当者は「発生は横ばい。終息という状況ではない」。

男性は「小規模な農家だと感染に気づかないかもしれない。県が農家を一斉に調べるなど積極的に動かないと、感染は収まらないのではないか」と話す。
●出荷に空白期も
一度に子豚を失うと出荷の空白期が生じる農家が出てくる。鹿屋市の畜産関係者によると、売り上げが数百万円落ち込む恐れがある農場や、養豚を続けていけるか不安に思う高齢の農家もいるという。
流通への影響は今のところ出ていないものの、年間約40万頭を処理するナンチク(鹿児島県曽於市)の田原健常務は「数カ月後にどれくらい出荷頭数が減るか気がかりだ」と語る。
●治る病気、対策後手
PEDは昨年10月、沖縄で国内7年ぶりの発生が確認され、11月に茨城、12月に鹿児島と宮崎、1月に熊本、2月に愛知と発生地域が拡大した。農水省や各県によると、6県の165農場で発生、これまでに少なくとも4万頭以上発症し、1万頭近くが死んだ。

九州では豚の飼育頭数が全国1位の鹿児島で少なくとも3300頭、2位の宮崎で約6千頭が死んだ。特に養豚が盛んな鹿屋市や宮崎県都城市で感染が広がる。鹿屋市には鹿児島で確認された113農場のうち77農場が集中しており、県は密集によってウイルス濃度が高くなったことが要因の一つと推測する。

拡散の理由は農場を出入りする車や人にウイルスが媒介されたと考えられている。ただ、発生が集中する地域で感染していない農場もあり、はっきりしていない。

PEDは治るため、かえって防疫への取り組みが遅れた側面もある。感染力が強い口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザは、移動制限や殺処分などの強制力を伴う防疫策が法律で定められ、防疫への補償制度もある。PEDはこうした制度の対象外で、行政が踏み込んだ対応がとりづらい。畜産で通常、防疫に使う消石灰がPEDウイルスに効かないことや、消毒液を濃くしないと効果が薄いことなど、詳細な消毒方法も当初、農家には周知が徹底されていなかった。

(中島健、張守男、周防原孝司)

◆キーワード

<豚流行性下痢(PED)> 豚流行性下痢ウイルスが引き起こす伝染病。食欲不振や水のような下痢が特徴で、生まれたばかりの子豚に感染すれば高い確率で死ぬ。回復すれば肉豚として出荷できる。ウイルスはふんに含まれ、口や鼻から感染する。近年はアジア各国で発生が報告され、米国でも感染が広がっている。人に感染することはない。

【写真説明】
消毒ポイントで養豚運搬車両を消毒する担当者=宮崎県都城市梅北町、寺師祥一撮影(画像の一部を修整しています)

【図】
豚流行性下痢の発生県と農場数

《朝日新聞社asahi.com 2014年2月23日より引用》

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