(社説)TPPと関税 自由化の原点忘れるな
2014年02月21日
環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が山場を迎えた。
国有企業や知的財産権の扱いをめぐる先進国と途上国の対立に加え、日米間の関税交渉が焦点である。
米国は自動車業界の保護を譲らない。一方の日本は、国会の委員会決議であげられたコメ、牛・豚肉、乳製品など「重要5項目」を守ろうと、畜産・酪農分野を中心に激しいやりとりが続いている。
交渉がきれいごとではすまないのは確かだ。ただ、「高い水準の自由化を目指す」というTPPの理念を、両国政府は忘れないでほしい。
国内の産業が打撃を受けそうなら、関税の引き下げ・撤廃に一定の年数をかけつつ、競争力の強化に向けて対策を講じる。これが基本だ。関税撤廃への姿勢が他の国より見劣りするとされる日本政府は、特に肝に銘じるべきだろう。
心配なのは、政府が5項目を「聖域」と意識するあまり、他の品目の関税交渉や関税以外の分野にしわ寄せが生じたり、思わぬ代償を払わされたりしないか、ということだ。
交渉はゼロか100か、ではない。関税に限っても貿易の実態を見れば突破口はある。
重要5項目は細かい分類では586品目あるが、その4割では輸入実績がない。関税をなくすと輸入が急増して関連産業が痛手をこうむるのか、そもそも需要が乏しいのか、個別に見極めることが不可欠だ。
関税で守るばかりでは課題が解決しないことは、これまでのコメ政策が物語る。
90年代の貿易自由化交渉ではコメ市場の抜本的な開放を拒否し、一定量の輸入義務付けを受け入れることで対応した。
この仕組みは今も続いており、国内の年間消費の1割にあたる量を輸入している。それに伴う国の財政負担は年300億円前後。だが、コメ農家の競争力がついたとは言いがたい。
政府はようやく生産調整(減反)制度をなくし、新たな機構を設けて農地の集約を急ぐ方針を打ち出した。一方、この間、コメの国際相場は値上がりし、国内産との価格差は確実に縮まってきた。
こうした状況を踏まえ、コメにかけている高い関税を下げる余地がないのか、ギリギリまで検討する必要がある。
国内の産業に目配りしつつ、消費者がさまざまなモノやサービスを安く買えるようにして、生活を豊かにしていく。
通商交渉の原点を見失ってはならない。
《朝日新聞社asahi.com 2014年2月21日より引用》